残業を終え、帰り支度をする。帰り際、すっかり綺麗に片付いてしまった永田のデスクを見て、胸がぎゅっと掴まれたようになった。彼はもう、明日からは来ない。
ため息をついて会社を出ると、すっかり暗くなり星が見えていた。本当は今日、こんなに残業するはずじゃなかったのに。夕飯はコンビニで何か買って帰ろう。
一人でふらふらと力なく大通りを歩き出す。車は多いものの、歩道にはあまり人は歩いていなかった。私を照らすヘッドライトの眩しさに目を細める。
ふと、帰り道にある小さな公園が目に入った。あまり人も利用していなさそうな寂れた公園で、さび付いた滑り台とブランコがあるだけの狭いものだ。今まで気にしたことはなかったが、今日はなんだか呼ばれているような気がした。
足を止めてじいっとそちらを見てみる。中にあるベンチに、一人男性が俯いて腰かけていた。その隣に花束が見えたことで、彼が誰なのか分かる。
「永田?」
聞こえるはずがないのに、まるでその声に反応するかのように永田が顔を上げた。そして、私を見て驚いたようなそぶりを見せる。
彼はやや躊躇いながら、私に手を振った。それを見て、私は戸惑う。
手を振り返して帰ればいいんだろうか。でも、そしたらもう彼には二度と会うことはないだろう。
私は迷った挙句、永田の傍まで歩み寄る。公園には心もとない街灯が一つあるだけで、かなり薄暗く不気味に思えた。そんな中一人で座る永田に少し引いてしまうぐらいに。
彼の正面に立つと、私は言葉を選びながら言う。
「こんな暗いところで、何してるの? 誰か待ってるの?」
尋ねると、永田が私を見上げながらふっと表情を緩めた。
「いや、なんか帰るのが寂しくなってぼうっとしてただけ。最終日だったし」
「送別会してくれるって、みんな言ってたじゃない。やってもらえばよかったのに」
「まあ……ありがたかったけど、気持ちだけで十分」
寂しそうに笑った永田を見て言葉に詰まる。ついここまで来てしまったけれど、一体これからどうすればいんだろう。こんなに辛そうな永田を見て、私は気の利いたことなんて言えるはずがない。