やっと公畜から解放される、金曜日の終業のチャイムがなった。
 この時を待っていた。
 ボクはデクスを片付けて、そそくさと帰るの支度をする。
「お疲れ様でした。失礼します」と形式的な声を上司たちにかけ、事務所を立ち去ろうとした時、眞央が目の前に立ちはだかったいた。
 花見はしない、と断ったのに、やっぱりしぶとい。

「いや、だからボクは眞央さんたちと花見はしないよ」
 機先を制してボクは言う。
「富木くん家の近くの河川公園で遥菜と夜桜の花見をするのよ」
「そうか。楽しんでおいでよ」
「で、遥菜は車で一旦家に帰ってから、現地で合流することになってるの」
「そうか」
「で、私は電車でこのまま現地に行くから、公園までは富木くんの帰り道と同じだよね? 一緒に行こう」
「二人きりで電車に乗って、同じ駅から降りる姿を職場や知り合いの誰かに見られたらさ、誤解されるから、やめようよ」
「誤解?」
「そうだよ。こんな田舎で二人きりになってたら、すぐに噂が流れるよ」

「でもさ」と食い下がる眞央。いつも以上に退けるのが手強そうだ。
「何? もう、ボクは先に帰るよ」
「でもさ、私一人で薄暗い中、あの川沿いの道を公園まで歩かせるのって、危なくない? 男としてどうよ? こういう理由なら、例え二人きりでも送るくらい問題ないでしょ?」
「そんな勝手な……」
「もし私が危ない目にあったら、職場の人に言うよ。帰り道だからついでに富木くんに送ってって言ったのに、何もしてくれなかったって」
「うーん」
 そんなことを言われたら、何も言えない。横で会話を聞いていた課長の瀬古も、「送ってやれ」と口出しをする始末だ。

「じゃあ、決まりね。一緒に行こう」