一人でいるのが、好きだ。

 誰に何かを指図されることなく、全部自分の思うままに生きていたい。それなりに寂しくはあるが、それ以上に一人の時間を楽しめてしまう自分がいる。

 外に出て、人と交わって生きていくのはあまりに辛いことが多い。
 だったら部屋に引きこもって生きていければいいのだろうが、それでは生活する金を得られないから、この世は困ったものだ。

 だから、今日も社畜となった。いや、公務員の仕事をしているから、正確には公畜か? 辛いことを目一杯詰め込んだ、市職員としての時間を終えて帰路につくと、ボクはやっと希望に包まれる。

 そう、この時を待っていた。
 一人暮らしするアパートのドアを解錠して中に入り、締めて、施錠した瞬間に、ボクは楽園にいるかのような気持ちになる。

 やっと、一人になれた。
 ボクは自由だ。誰もボクに口出す人はいない。

 カップラーメンをすすりながらリモコンでテレビの電源を入れると、桜がもう間もなく見頃だとニュース・キャスターが伝えていた。

 ──だからって何なんだ。
 ボクは花が、嫌いだ。
 確かにキレイだか、花はすぐに移りゆく。変わらないことを愛するボクの日常に、すぐ変化する花は不必要だ。
 だって、変化するものを日常に取り入れてしまって、うっかり愛着がわいてしまったら、枯れた時に悲しくて困ってしまう。
 愛着なんて感情を持たなければよかった、と後で傷付くくらいなら、最初から拒絶すればいい。

 その嫌いな花の最たるものが、桜だ。どうして、みんなはあのすぐに散ってしまうものに魅了されるのか?

 ボクは、できるだけ毎日の感情の起伏を少なくして、静かに暮らしたい。
 誰にも邪魔されず、ひっそりと。

 ボクの推しは、アイドル系アニメのキャラクターだ。一人なら、これを存分に見入っても、誰に何を咎められることもなければ、変な感情を持たれることもない。

 アニメのキャラクターは人間と違って変わらないから、いい。人間のアイドルのように突然転職したり、どこかのスポーツ選手と結婚したりしないで、ずっとボクに寄り添ってくれる。
 尊い存在だ、ボクの生きる糧となっているのだから。

 今夜もボクは推し活に没頭する。オンライン配信を見て、公式SNSや交流サイトを眺め、新しいグッズが出ていないか最新情報を集めた。