転生後の世界は魔法が文明に深く根付いた世界だった。
 ただし全員が魔法が使える訳ではなく、使える人間と使えない人間と分かれているためその差が差別を生んでいた。
 ただし魔法が使えるの基準が4種類の魔法、火、水、風、土の4種類が使えるのが条件という事なので俺は含まれていない。
 この世界の俺は火しか使えない。
 神であった頃も火ばかり使っていたので不便だと感じる事はないが、劣っていると思われるのは気に入らない。
 軽く終焉を迎えさせてもいいのだが、それでは休暇のために人間に転生した意味がなくなる。
 なので今日もお気に入りの場所でゴロゴロして昼寝をする。

 「グレン。今日もここに居た」

 心地よい風を感じ、暑すぎないぽかぽかの日差しでリラックスしている時に声をかけられた。
 聞き慣れた声に目を閉じながら言う。

 「絶賛休暇中だ。邪魔するな時空神」
 「あら、その言い方は好きじゃないわ。今はヴォルスと言う名があるのだからお互いに名で呼び合いましょう。グレン」

 グレンと言うのは今の俺の名前である。
 平民の出である俺には名前のみで家名、つまり名字はない。

 それと比べてヴォルス、時空を司る神は貴族の子女である事からヴォルス・インフィニットと言う名を持つ。
 何故俺と同じ世界、同じ年で生まれたのかは不明だが、時空を司る神なのだからこれくらいの事は出来るのだろう。
 それでも何故俺と同じタイミングで転生したのかは分からないが。

 「それで、何か用か」
 「そうそう。グレンにお願いがあってきたの」
 「お願い?変な物ではないだろうな」
 「そんなに変な物ではないはずよ。グレン。私の従者として一緒に学校に来て」

 学校。この国では貴族と王族のみが通う事が許された子供が勉強するための施設。
 他にも貴族の子息子女が交流するための場としても利用され、主に婚約者探し、大きな派閥に入るためのパイプ作りにも利用される。
 そんな場所に従者として共に行く??

 「何故俺なんだ。他にも従者は山ほど居るだろ」
 「ただ従者を連れて行くだけじゃつまらないし、同い年くらいの従者なら同じように授業を受けられる特典もあるわよ」
 「勉強しなくても神の頃に必要な物は大体学んでいる」
 「それ野生動物同然の知識でしょ。文明を終わらせて来た神が文字の読み書きや計算が出来るの?」

 そう言われてみると……読み書き出来ないな。
 この世界なのかこの国なのかは分からないが識字率は非常に低い。正しく読み書きや計算が出来るのは最低でも商人に弟子入りした者くらいだ。
 そうでない者は中途半端に字が読めたり読めなかったり、あるいは金を払って読み書きできる者を雇うという手段しかない。
 ただしその場合本当に仕事をしてくれているのかどうか分からないためほとんどが詐欺である場合が多い。あるいは契約書の重要な部分をわざと読み飛ばして伝えるなど、信用性が低い。
 だから読み書きができるだけでもかなり重宝される。

 「……文字と計算くらいは出来るようになっておくべきか」
 「それじゃ一緒に学校に行こう。手配は済んでるから」

 手配は済んでいるという時点で回避できる未来を潰されているような気がするが、これもまた休暇の使い方なのかもしれない。
 あとは両親に何と伝えるか考えておかないといけないなと思った。