ホームルームを終えて、彼女の席をちらりと覗くと女子生徒三人と男子生徒二人に取り囲まれ、雑誌を見たり、携帯の動画を見たりと盛り上がっているようだ。
放課後とは言われたが、わざわざ声をかける必要はない。
僕は、ひっそり支度をすると教室を出て下駄箱で靴を履き替えて、正門に向かっているところで携帯がなる。
ポケットから出すと、彼女からだった。

〈十七時に、この前のファミレス集合ね!〉

 振り返ると、ちょうど教室が見えて窓に女子生徒がいるのがぼんやり見える。きっと彼女だ。
僕の視線に気がついたのか、窓を開けて大きく手を振っているが、無視して正門の方へと足を運ぶ。
すると、また携帯がなった。

〈ちょっと無視しないでよ。〉

読み終えて、もう一度振り返ると笑顔でこっちに手を振っている。

《友達は?そこにいるんじゃないの?ばれるよ。》

僕が、打ち終えて顔をあげると彼女も携帯を見ていた。
どうやら、もう届いたようだ。

〈今、近くにいないよ。心配してくれたの?優しいね。
あ、それとも私が色んな人と仲が良いから嫉妬しているの?〉

遠くからでも分かる、アイツはきっとニヤニヤしながら文章を打ったに違いない。

《嫉妬も心配もしていない。帰る。》

それだけ送ると、彼女を見ることもなく家に帰った。
 制服からスウェットに着替えてベッドに寝転がると、隣の部屋から声が聞こえてくる。
ああ、そうか。弟の家庭教師が来ているのか。
呪文のように聞こえてくる声に問い詰められるのが嫌で、僕は逃げるように昨日のファミレスに向かった。
 店員さんに「一名ですか?」と聞かれ店内を確認したが彼女が見当たらないので『はい。』と答えると、「二名です!」背後から声が聞こえ振り返ると彼女がいた。

席について、飲み物を頼む。彼女はまだ制服で家に戻っていないようだ。

「黒木くん来ないかと思った。」

『行かないと言った覚えはない。』

「いや、だって帰るって送られてきたから。」

『行かなかったら、いつまでも待ってるだろ。』

「うん、待ってるよ。黒木くんの事を信じているから。」

これは、どういう意味だろう。
僕は、どう受け止めれば良いのだろう。
どうして、僕をそんなに真っ直ぐ見るのだろう。
戸惑っている僕に構わず、注文を次々にする彼女。

『いや、待て。パンケーキ食べに行くのではなかったのか。そんなに食べて大丈夫か?』

「大丈夫、大丈夫!女子高生の胃袋は無限なんです〜♪」

なんて言うと、美味しそうに完食し、ファミレスを出る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
 ようやく、パンケーキ専門店に向かうと十八時を過ぎているのにも関わらずたくさんの人が並んでいた。