あれから、こっそり下へと降りてきた僕らは今、グランドの倉庫裏にある低いレンガの堀に手をかけて登ろうとしている彼女に声をかける。
『ちょっと、本当に学校抜け出す気?』
「一回、やってみたかったの。こういうスリル感あること。いいからしゃがんで。」
僕は言われるがままに彼女の踏み台になる。彼女は柵を越えて、地面に足をつく〈トン〉という音が響くと近くをたまたま通った誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。
「黒木くん、早く。誰か来ちゃう!!」
こっちはハラハラと胸をざわつかせているのに、とても楽しそうだ。僕は、急いで柵を登って降りると【そこで何をしてるんだ。】と声をかけられ、顔を見られると背けようとすると彼女が僕の腕を掴んで走り始める。
【おい!】と声が聞こえたが構わず、彼女は走り続ける。
近くの公園に入り、ベンチに腰をかける。こんなに全力で走ったのはいつぶりだろう。息がきれて、喉も乾いている。
いつの間にか離された腕がまだ感触を残している。
「あー、楽しかった!」
おかしそうに笑って、僕を見る。
その瞳は、先程と違って本当に楽しそうだった。
「喉乾いた。黒木くん、お金持ってる?」
彼女はどうやら学校を抜け出そうと言う割に何も用意していなかったようで、自販機を指さしながら僕に言う。
『財布ならあるけど。』
「おおー凄い!じゃあ、ちょうだい!」
『はぁ?急になに。あげないよ。』
「良いじゃん。黒木くんはもう要らないでしょ。」
突然の問いかけに意味が分からない。僕がいつ財布を要らないと言っただろうか。全く理解不能だ。
『いるに決まっているだろ。どうしたら、そういう思考回路になる。』
「だって、もし私が引き止めていなければ飛び降りて死んでいたかもしれないでしょう。じゃあ、もう使い道ないよね。」
確かにそうだ。だが、今僕は生きている。
だから、今の僕には必要だ。
でも、コイツに渡してもいいかと思ってしまう僕がいた。
『分かったよ。あげるよ、好きに使えば。』
彼女は受け取ると、自動販売機の前に立ち少し悩むと小銭を入れて飲み物を買うと戻って来た。
「黒木くんのも買って来てあげる。コーヒーとコーラどっちが良い?」
『どうして、その二択なんだよ。』
「え、男の人ってこの二択しか飲めないと思ってた。」
『何だよ、それ。』
本当にそう思っているのか、真面目な顔をしているのが面白くて僕は笑ってしまった。
『やっぱり、変わっているよな。君の思考回路は。』
「病気だから、脳が侵食されてるのかも?」
僕は、彼女を見た。あの瞳をしていた。
言ってはいけないことを言ってしまったのかも知れない。
それとも、また僕をからかっているのか・・・。
「そんな困った顔しないで。冗談!前から変わってるって言われるし、私。」
やっぱり、からかわれていたようだ。
あえて何も返さず、《コーヒー》とだけ答えると、〈え?〉と聞き返されてしまった。
『だから、飲み物。どっちか聞いただろ。』
「あ、うん。分かった。コーヒーね。」
彼女は、まだ少し戸惑った様子でアタフタしながら自販機へと向かっていく姿が面白くて思わず頬が緩みそうになる。
そんな自分に驚く、こんな明るい気持ちになる感情僕にまだ残っていたんだ。
彼女から貰った、いや僕が奢ったコーヒーはいつもより少しほんのちょっとだけ美味しかったけど彼女には言わないでおこう。
「次は何しようか。」
『戻らなくて良いのか?今、戻れば反省文くらいで済むかも知れない。』
「ええ!?ちょっと戻る気あったの?」
『それは、あるよ。戻る以外の選択肢が逆に見つからない。』
彼女は僕が放ったその言葉にも驚いている。
「あのさ、もしかして飛び降りようとしていた訳じゃなくて何か拾おうとしていたとかそういうのだったの?
私の勘違い?」
またもや、訳の分からない疑問を問われる。どういう思考回路でそんな事を聞いてきたのか僕には分からなかった。
僕は、もう呆れている。
『こんなこと、僕の口から言うのはどうかと思うけど。君の言う通り飛び降りるつもりだった。
というかさっきから面白がってるだろ。ネタにするなよ。』
「学校が辛くて死のうとしているのかと思ってたから、そんな学校に戻りたいなんてそっちこそ思考回路が狂ってると思うな。あと、ネタにはしていないよ。
でも、ちょっと面白いなーとは思ってるけど。」
『人が苦しむ姿が面白いなんて最低だな。』
僕が少し強い口調で言葉を放ったのに、彼女は全く動じていない様子で微笑んでいた。
「だって、聞けば聞くほど不思議だよね。お金は貸してくれるし、学校に戻ろうとするし、面白いって思うのは必然的だよ。」
もう、何も返す言葉が見つからない。確かに、僕は何をしているんだ。
「ねぇ、お腹空かない?ファミレスに行きたい!」
『この格好で?』
「この時間に、制服で行ったら店員さんに補導されるかも知れないね!それも、スリルあって楽しいかも!!」
彼女は、瞳をキラキラ輝かせて僕を見る。
さっきも言っていたそのスリルって何なんだよ。
『やめてくれ、警察沙汰に僕を巻き込まないでくれ。』
「え〜、うーん。分かった。いい場所あるからついてきて。」
彼女は僕の腕を再び掴んで、走り出す。
僕は何も言わずただ彼女に引っ張れるまま走り続けた。
『ちょっと、本当に学校抜け出す気?』
「一回、やってみたかったの。こういうスリル感あること。いいからしゃがんで。」
僕は言われるがままに彼女の踏み台になる。彼女は柵を越えて、地面に足をつく〈トン〉という音が響くと近くをたまたま通った誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。
「黒木くん、早く。誰か来ちゃう!!」
こっちはハラハラと胸をざわつかせているのに、とても楽しそうだ。僕は、急いで柵を登って降りると【そこで何をしてるんだ。】と声をかけられ、顔を見られると背けようとすると彼女が僕の腕を掴んで走り始める。
【おい!】と声が聞こえたが構わず、彼女は走り続ける。
近くの公園に入り、ベンチに腰をかける。こんなに全力で走ったのはいつぶりだろう。息がきれて、喉も乾いている。
いつの間にか離された腕がまだ感触を残している。
「あー、楽しかった!」
おかしそうに笑って、僕を見る。
その瞳は、先程と違って本当に楽しそうだった。
「喉乾いた。黒木くん、お金持ってる?」
彼女はどうやら学校を抜け出そうと言う割に何も用意していなかったようで、自販機を指さしながら僕に言う。
『財布ならあるけど。』
「おおー凄い!じゃあ、ちょうだい!」
『はぁ?急になに。あげないよ。』
「良いじゃん。黒木くんはもう要らないでしょ。」
突然の問いかけに意味が分からない。僕がいつ財布を要らないと言っただろうか。全く理解不能だ。
『いるに決まっているだろ。どうしたら、そういう思考回路になる。』
「だって、もし私が引き止めていなければ飛び降りて死んでいたかもしれないでしょう。じゃあ、もう使い道ないよね。」
確かにそうだ。だが、今僕は生きている。
だから、今の僕には必要だ。
でも、コイツに渡してもいいかと思ってしまう僕がいた。
『分かったよ。あげるよ、好きに使えば。』
彼女は受け取ると、自動販売機の前に立ち少し悩むと小銭を入れて飲み物を買うと戻って来た。
「黒木くんのも買って来てあげる。コーヒーとコーラどっちが良い?」
『どうして、その二択なんだよ。』
「え、男の人ってこの二択しか飲めないと思ってた。」
『何だよ、それ。』
本当にそう思っているのか、真面目な顔をしているのが面白くて僕は笑ってしまった。
『やっぱり、変わっているよな。君の思考回路は。』
「病気だから、脳が侵食されてるのかも?」
僕は、彼女を見た。あの瞳をしていた。
言ってはいけないことを言ってしまったのかも知れない。
それとも、また僕をからかっているのか・・・。
「そんな困った顔しないで。冗談!前から変わってるって言われるし、私。」
やっぱり、からかわれていたようだ。
あえて何も返さず、《コーヒー》とだけ答えると、〈え?〉と聞き返されてしまった。
『だから、飲み物。どっちか聞いただろ。』
「あ、うん。分かった。コーヒーね。」
彼女は、まだ少し戸惑った様子でアタフタしながら自販機へと向かっていく姿が面白くて思わず頬が緩みそうになる。
そんな自分に驚く、こんな明るい気持ちになる感情僕にまだ残っていたんだ。
彼女から貰った、いや僕が奢ったコーヒーはいつもより少しほんのちょっとだけ美味しかったけど彼女には言わないでおこう。
「次は何しようか。」
『戻らなくて良いのか?今、戻れば反省文くらいで済むかも知れない。』
「ええ!?ちょっと戻る気あったの?」
『それは、あるよ。戻る以外の選択肢が逆に見つからない。』
彼女は僕が放ったその言葉にも驚いている。
「あのさ、もしかして飛び降りようとしていた訳じゃなくて何か拾おうとしていたとかそういうのだったの?
私の勘違い?」
またもや、訳の分からない疑問を問われる。どういう思考回路でそんな事を聞いてきたのか僕には分からなかった。
僕は、もう呆れている。
『こんなこと、僕の口から言うのはどうかと思うけど。君の言う通り飛び降りるつもりだった。
というかさっきから面白がってるだろ。ネタにするなよ。』
「学校が辛くて死のうとしているのかと思ってたから、そんな学校に戻りたいなんてそっちこそ思考回路が狂ってると思うな。あと、ネタにはしていないよ。
でも、ちょっと面白いなーとは思ってるけど。」
『人が苦しむ姿が面白いなんて最低だな。』
僕が少し強い口調で言葉を放ったのに、彼女は全く動じていない様子で微笑んでいた。
「だって、聞けば聞くほど不思議だよね。お金は貸してくれるし、学校に戻ろうとするし、面白いって思うのは必然的だよ。」
もう、何も返す言葉が見つからない。確かに、僕は何をしているんだ。
「ねぇ、お腹空かない?ファミレスに行きたい!」
『この格好で?』
「この時間に、制服で行ったら店員さんに補導されるかも知れないね!それも、スリルあって楽しいかも!!」
彼女は、瞳をキラキラ輝かせて僕を見る。
さっきも言っていたそのスリルって何なんだよ。
『やめてくれ、警察沙汰に僕を巻き込まないでくれ。』
「え〜、うーん。分かった。いい場所あるからついてきて。」
彼女は僕の腕を再び掴んで、走り出す。
僕は何も言わずただ彼女に引っ張れるまま走り続けた。