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帰り道はほとんど会話はなかった。
ただ、まゆは言っていた。
「あたしはあたしが好きだから。アキラもそうでしょ?」
「好きじゃ、ないです」
「強情だね」
まゆは苦笑した。
「少なくとも、サキとかいう女よりは好きになっときなさいよ」
「なんでですか」
「自分を大事にしてくれない人間に執着しちゃもったいないわよ」
車が公園近くの駐車場に着いた。わずかに明るくなってきているのは、東の空だろうか。「今夜はありがとうございました」
あたしはまゆに頭を下げた。まゆは困ったように笑った。
「サキとかのこと好きなまんまでもいいから、自分を大事にしな」
自分を大事にするってなんだろう。
早希があたしの一番じゃあ駄目なのだろうか。あたし自身が一番じゃないと駄目なのだろうか。
まゆはどこかあたしを誤解していると思う。あたしは自分が一番じゃいけない人間なのに。 だって早希を束縛してしまうから。
あたしはやっぱり早希のことが好きだ。早希の側にいたい。
早希があたし以外を選ぶなんて許さない。
「じゃあ、もう会うこともないと思うけど、元気でね!」
まゆはあたしに手を振って駐車場の向こうに歩いて行く。
もう少しあたしをわかって欲しい、そんな気持ちが少しだけわきあがったが、多分もう会わない。それでいい。
あたしはエンジンをかけた。
「好き、か」
そしてゆっくりと行くあてもなく走り出した。