屋敷に帰り私をソファーに座らせた朔哉は、両手を握って視線をあわせるように私の前へしゃがみ込んだ。

「うか様からなにを言われた?」

「なにって……」

誤魔化そうとした。
けれど面の奥から群青と金の瞳が私をじっと見ている。
嘘は許さないかのように。
そもそも神様に、嘘はついてはいけない。

「朔哉と一緒にいられるのはほんの短い間なんだから、さっさと出ていけって……」

「それだけ?」

「朔哉が……また、泣くのは嫌だって」

そうだ、うか様は〝また〟と言ったのだ。
以前、同じようなことがあった?

「……はぁっ」

朔哉の口から落ちたため息は、諦めなのか呆れなのか、それとも悲しみなのかよくわからなかった。

「心配性だな、あの人も」

小さくははっと、朔哉が笑う。

「昔――まだ、お侍がいてちょんまげなんて結っていた頃。
一度だけ、妻を娶ったことがあるんだ」

私の隣へ座り、彼は肩を抱いて私を引き寄せた。

「不作が続いていてね。
口減らしもかねて供物として、少女がひとり差し出された。
興味もなかったし、そういう趣味のある神にでもやろうかと思ったんだ」