じゃあ私はもしかして、結婚する必要なんてなかったってこと?

「それでも、俗世は捨てなければなりませんけどね」

「そうなんですか……」

朔哉が私を眷属ではなく結婚して妻にしてくれたのは、もしかしたらいままで通り対等な立場にするためだったのかもしれない。
そうだと、いいな。

陽華さんは私の前を危なげなく歩いて行く。
よっぽど見えない生活に慣れているみたいだ。
彼がこれだけできるのなら、私だってやればできるんだろうか。

「いつも目隠しで生活しているんですか」

「ああ、これですか」

振り返った陽華さんが、するりと自分の目隠しを外す。
その下からは……酷い傷痕が現れた。

「うか様のご尊顔を拝するなどという間違いがあってはならないので、その手で抉っていただきました。
あのときほど恍惚とした気分になれたことは他には……あ、いえ」

こほんと咳払いして誤魔化したけれど。
もしかして陽華さんって変態さん!?
それに悪いけど、あのわがままなうか様に惚れ込んだとか。
うん、立派な変態さんだ。

「このとおり醜い傷痕が残ってしまいましたので、皆様を不快にさせないよう隠しております」