周りからは物音はしない。
本当に誰もいないのは安心した。

「……九十八、九十九、百!」

一応、辺りの気配をうかがう。
もし誰かがいて顔を見てしまってはいけないから。
けれど誰もいなさそうで、そーっと目を開けた。

「……朔哉?」

どれくらい離れたかわからないが、百数える間なんてかなり遠くに行ってしまっているだろう。
呼んだところで聞こえるはずがない。
そう思いながら呼んでみたんだけど……。

「心桜」

「うわっ!」

呼んだ途端、朔哉が目の前に現れて、心臓が肋骨突き破って飛び出たかと思った。

「びっくりした?」

「……したよ、びっくり」

まだ心臓は口から出てきそうなほどばくばくいっている。
それほどまでに唐突に、朔哉は現れたのだ。

「これが心桜に授けた術。
どんなに遠くにいても、心桜が呼べば私は一瞬で傍に行くよ」

これは便利……なのか?
私は屋敷の一角から出られないのに。

「例外もあるけどね。
禁域にいれば使えない」

「禁域って?」

「んー、古い神様しか入れない、神聖な場所とか。
あとは黄泉だね」

黄泉はわかる。