いや、正確には会おうと思えば会えるらしい。
ただしそのときには、周りの人間はもちろん、両親の記憶からは私の存在はきれいさっぱり消えてしまっている。

「……そろそろよろしいですか」

「はい」

宜生さんに声をかけられ、立ち上がる。

「元気でね。
もう私たちにはなにもできないんだから」

「うん、お母さんも元気でね」

「ふん。
お前などいなくなって清々する」

私の手を心配そうに掴む母の目も、強がって憎まれ口を叩く父の目も、涙で赤くなっていた。

「いなくなったら淋しがるくせに」

「……うるさい」
出てきた涙を拭い、無理矢理でも笑ってみせる。

「じゃあ、行くね」

「ああ、元気で」

お父さん、お母さん。
最後のわがままを聞いてくれてありがとう。
私、絶対に幸せになるから。
だから、心配しないで。

最後に、いままでの感謝を込めて、両親へ深くあたまを下げた。

「あら、雨ね」

空を見上げた母の声つられて私も見上げる。
眩しいくらいの晴天なのに、しとしとと雨が降っていた。

「本当に狐の嫁入りだな」

苦笑いの父に私も苦笑いしかできない。

「幸せになれよ」

「はい」