たびたび起こる不思議なことに、父は完全に諦めてしまった。

昔からのしきたりだって、私の輿入れは白無垢なのらしい。
神様は人間のように式を挙げたりしないが、私のために神前式形式で特別に式をやろうねって朔哉が言ってくれた。


そして、輿入れの日がやってきた。

「お父さん、お母さん。
いままでお世話になりました。
育ててくれてありがとう」

私が白無垢姿で三つ指をつくと、あたまの上ですんと鼻を啜る音がした。

「……別にお前に、感謝されるようなことはしとらん」

今日は、父は紋付き袴、母と祖母は黒留め袖だ。
朔哉の元へ行くのは私ひとりだが、形式は大事だと準備してくれた。

「でもこれで最後だから。
もうお父さんとお母さんに感謝の言葉すら伝えられなくなる。
だからこれから先の感謝をいま、伝えたいんだ」

「心桜……」

私に縋って母は嗚咽を漏らしていて、申し訳ない気持ちになってくる。

通常の結婚とは違うのだ。
たとえ遠く離れた異国の地へ行ってしまうとしても、生きていればまた会えるチャンスはある。
でも私は本当に、もう二度と両親には会えない。