「ゆるさん、ゆるさんぞ!」

「あの、ね。
その人、春に……遠くに、行っちゃうんだ。
だから私も、着いていきたい」

「なんだそれは!
そいつを、ここに連れてこい!!」

父が怪獣バリに吠える。
これってもしかして、娘は嫁にやらんぞって奴なのかな。

「えっと、ね。
事情があってその人、お父さんとお母さんに会わせられないんだ。
でもほんとにいい人で、心配いらないから」

「そんなの、信用できるわけないだろうが!
連れてこい、いますぐここに連れてこい!!」

父の気持ちはわかる。
が、できないものはできないのだ。
あと三ヶ月しかないのにどうしよう……。

「……昭史(あきふみ)
あきらめんしゃい」

それまで黙っていた祖母が唐突に、ぼそっと呟いた。

「心桜ちゃんにはお狐様の印がついとる」

ぎくり、と背中が揺れる。
おそるおそる、祖母を振り返った。

「おばあ、ちゃん……?」

「心桜ちゃんはお狐様に気に入られたんじゃ。
なら、仕方ない」

じっと祖母が私を見つめる。
それはまるで、なにもかも知っているかのようだった。

「狐だとか非科学的だ!
馬鹿馬鹿しい」