「私と結婚すれば人間の世界を捨てなければならない。
もちろん、ご両親とももう二度と会えない。
それにどんなにつらいことがあっても、神の世界では人間の心桜に手を貸すものなど誰もいない。
……それでも本当にいいんだな」

厳しい朔哉の声に、喉はからからに渇いていた。
空気はぴんと張り詰めたものへと代わり、呼吸さえも憚られる。
これが……神としての朔哉。

「……は、い」

たった二音を口にするのでさえ、酷く神経を使った。
神に嘘はつけない。

――ついてはいけない。

「……わかった」

ゆっくりと朔哉の顔が近づいてくる。
私のシャツをずらして首もとを露わにさせ、朔哉はそこに――噛みついた。

「……っ」

「契約の印だ。
これで心桜は私から逃げられない」

まるで恐ろしいものを見るように、いや、実際に神としての朔哉は恐ろしかったのだ――顔を見上げる。
視線のあった朔哉は、口もとを綻ばせ、ふっと笑った。
途端に空気はいつものものへ一気に戻る。

「そう怯えなくていい。
私は心桜を守って絶対に幸せにするから」

朔哉の手が頬に触れ、意図がわかって目を閉じた――ものの。

「あ」