「こんな大事なことを、そんなに簡単に決めるものじゃないよ」

朔哉の声はまるでだだっ子を宥めるようで、ますます私は意地になった。

「簡単になんて決めてない!
お父さんとお母さんに会えないのはつらいよ?
でもそれ以上に、朔哉に会えなくなったら私、死んじゃう……!」

泣きたくなんかないのに涙が出てきて、ぐいっと思いっきり拭う。

「困ったな。
そんなに心桜が私を、愛してくれているなんて知らなかった」

「愛して、る……?」

言われた意味がわからない。
朔哉のことは好きだ。
いま初めて、離れたくないくらい好きなんだと気づいた。
でも、愛しているって……?

伸びてきた手が、そっと私を抱きしめる。

「心桜は私をそれだけ深く愛しているから、会えなくなると死んじゃうんだろう?」

ああそうか。
それだけ朔哉が好きだから、人間の世界を捨てるなんて即決できたんだ。

「朔哉が好き。
世界の全部を捨てたって、朔哉と一緒にいたい」
「心桜は本当に可愛いな。
そんなに可愛いと……逃がせなくなる」

面の向こうから朔哉がじっと私を見つめる。
視線は射貫かれたかのように髪の毛一本分もずらせない。