これは、朔哉が私を友達と認めてくれているからできることなのだ。
わかっている、けれど最近はその埋められない立場の差が、――酷く苦しい。

朔哉は九州の稲荷神を束ねる立場の神様だ。
朔哉曰く、九州本社の社長だと思ってくれたらいいよー、だ。
なんだかわかりやすいんだかわかりにくいんだかの例えだけど。
そんな偉い神様と人間の小娘が友達だとかまず問題で。
さらには私が朔哉の屋敷をうろつくと、実害がある。

「朔哉、その」

「あ、お手洗い?
宜生ー!」

「はい、ただいま」

朔哉が呼ぶと同時に、宜生さんが部屋に入ってくる。
どうなっているんだろうとは思うけど、考えちゃダメ。

「心桜をご不浄に案内して」

「かしこまりました」

宜生さんに伴われて部屋を出る。
彼の案内が必要なのは屋敷が広いので迷うからとかじゃなく、――私が誰かと、会ってしまわないため。

神様およびその眷属の方たちは、人間に素顔を見られると消滅してしまう。

だからあの日、唐突に現れた私に屋敷中がパニックになったのだ。
消滅の危機となれば、仕方もないだろう。