彼女の言うことを聞かなければ、言の葉はもらえない。
けれど飲めば私は黄泉から出られなくなり、言の葉は朔哉の元に届かない。
どうしたらいいのかわからず、ただただ杯に注がれた酒を見つめる。

「早う飲め、早う。
それとも我の酒は飲めないのかえ?」

彼女の目が、すーっと細くなった。
飲まねばどのみち、殺される。
半ばやけくそでくーっと一気にそれを口に含んだ。

「……!
ごほっ、ごほっ!」

それはのども通していないのに私の全身を焼き、吐き出したのは真っ赤な血だった。

「もっと飲め。
食べよ」

ぼたぼたと血を吐いている私にかまわず、彼女はさらに杯へ酒を注いだ。
少しだけ落ち着き、膳の前へ座り直す。
尾頭付きの鯛に赤飯、それに吸い物と祝いの膳だが、どれも腐りウジが涌いていた。

「……伊弉冉様。
言の葉をいただきたいです」

彼女の前で平身低頭する。
瞬間、飛んできた杯が私のあたまを直撃した。

「まだ我は満足しておらぬ。
満足するまで帰さぬぞ」

「お願いでございます。
朔哉が、朔哉が待っているのです」

ひたすら地面に額を擦りつけ、伏して願う。
それしか私には、できないから。