「それたぶん、倉庫にあったあれだと思います」

「ほんとに!?
すぐに取りに行こう!」

大急ぎでうか様の屋敷へ向かい、倉庫からそれを出す。

「これ、ですか……?」

「これこれ!
これがあれば黄泉には入れるから!」

その着物は防護服的な役割があるらしく、それを羽織っていれば黄泉に入っても無事でいられるようだ。

「本当に心桜、行くの?」

「はい」

鳥居の前でうか様は盛んに手を揉んでいた。

「朔哉のためですから」

「気をつけていくのよ」

「はい」

中は暗いからと、狐火の提灯を彼女は持たせてくれた。
それを手に鳥居をくぐる。
こうして私は、黄泉比良平坂を下っている。



坂を下ったところに、なぜか桃の木があった。
なっている桃が暗闇の中で、まるで電飾のように輝いている。

「目印になるよね……」

桃の木を尻目にさらに歩みを進める。
もうどれくらい歩いたのか、わからない。
見えるのは僅かに、提灯の照らす範囲だけ。

「あとどれくらいなんだろう……?」

伊弉冉様は最奥にいるのだと聞いている。
けれどその最奥が、入り口からどのくらい先にあるのかわからない、とも。