「朔哉を助ける手段がひとつだけある。
でもそれは心桜の命を奪ってもなお、上手くいくとは限らない」

「聞かせて、ください」

たとえそれが限りなくゼロに近くても。

――ゼロ、でないなら縋りたい。

「それは――」



きつく目隠しをし、寝室へ入れてもらう。

「朔哉」

私をベッドの傍に座らせ、環生さんは朔哉の手を握らせてくれた。

「私が絶対に、助けるから。
だからもうちょっとだけ、頑張って。
絶対に絶対に助けるから。
だから」

朔哉からの返事はない。
ただ、苦しそうな荒い呼吸が聞こえるばかり。
手探りでそっと、朔哉の頬に触れる。
想いを込めるように唇を重ねた。

「……待っててね」

私は――黄泉へ、降りる。



「……気持ち悪い」

黄泉比良平坂の入り口は、塞いである岩の隙間からすでに、鋭い腐臭のする空気が漏れていた。
入りたくない、けれど黄泉に行かなければ朔哉の病気は治らない。
小さく深呼吸し、岩を押す。
千引(ちびき)の岩といわれるだけあって重いが、必死に力込めて押した。

「開いた……」

僅かに人ひとり滑り込める穴が開いた途端に、肺を刺す空気が私を包んだ。