「わかりました」

宜生さんの足音が遠ざかっても、私はそこに突っ立ったままだった。

今日のあれは、朔哉のおふざけじゃなく本当に咳だった。
そういえば、昨日だって咳をしていた。
神様は病気にならないはずなのに、なんで熱なんて出しているの?
それに私、朔哉の顔を見ていないよね。

「心桜様。
冷えます故」

いつの間にか来ていた環生さんが、そっと私を着物でくるんでくれる。
私の服は、肌着だけになっていた。

「朔哉は!
朔哉は、大丈夫なの!?」

ヒステリックに叫ぶ私を、彼女はつらそうに見下ろした。

「ご安心ください、心桜様は朔哉様のご尊顔を拝見していないかと」

「なら、よかった……」

ほっと、身体中から力が抜けてその場に崩れ落ちる。
朔哉が消えてしまうことはない。
それにきっとあの熱だって、なにかの間違い。

「……ただ」

「ただ?」

いま、環生さんは安心していいって言った。
なのに、ただってなに?

「原因不明の高熱が下がりませぬ」

「大丈夫じゃなかったの!?」

がくがくと震える足で立ちがり、彼女へ詰め寄る。
環生さんが悪いわけじゃないのはわかっている。