まだ入り口付近すら片付いていないが、あまり遅くなると朔哉が心配する。
のめり込みすぎないようにしないと。

「今日はもう、帰りますね」

「はい、ご苦労様でした」

陽華さんに見送られて鳥居をくぐる。
帰ったら、朔哉の落書きを発見した話をしよう。
ついでに、小さい頃はどんなだったのか、訊いてみてもいいかな。

「おかえり」

「ただいまー」

今日も朔哉に、ただいまのハグをする。
が、彼の身体が酷く熱い気がする。

「……朔哉?」

「……なに?」
いつもなら私を抱きしめ返すのに、力がない。
面の奥の瞳は潤んでいて、その面が――。

――カラン。

「宜生さん!
宜生さん!!!」

焦って目をつぶり、大声で宜生さんを呼ぶ。

いまのはセーフ?
見ていないよね、朔哉の素顔。
誰か、大丈夫だって言って!

「朔哉様!」

すぐに来てくれた宜生さんはぐったりと私にもたれかかる朔哉の様子がおかしいと気づいたようだ。

「顔は見てないと思い……ます。
大丈夫になったら、環生さんに迎えに来てもらえますか。
それまで、ここにいますから」

声が、震える。
不安で不安で、泣き叫んでしまいたい。