「あれは心桜専用だから、量産なんてできませんよ!」

ばん!とドアが開くと同時に、朔哉の声が響いてくる。
うか様が電話を切ってから、五分もたっていない。

「えー、だって欲しいんだもん、あれ」

うか様は朔哉へ視線を向けることなく、塗った爪へふーっと息を吹きかけた。
その様子に、額へ手を当てて二、三度あたまを振り、朔哉は私の隣に腰掛けた。

「心桜の気が入って初めて、これは動くんです。
心桜は本当に、いい気を持っているから」

それは初耳です。
パソコンに繋いでスイッチ入れて、本を載せたら完了、としか聞いていない。

「じゃあ誰でも使えるようにして」

「できません」

「できないじゃない、やれっていってるの」
有無を言わせず、うか様がにっこりと笑う。
どうみても無理難題を押しつける、わがまま女社長にしか見えない。

「……わかりましたよ」

そして嫌々でも従っちゃう朔哉は、振り回される気の毒な部下だ。
でもうか様の気持ちを知っちゃったいま、これは朔哉に対しての絶対的な信頼があってこそなんだと思う。
あとツンデレ。

「よし。
じゃあご褒美先渡しじゃないけど」