結ばれた手から、確と愛は感じるのに、それとは真逆の言葉を吐かれてゾッとした。

「沙里のことは好きだよ。俺もずっと前から好きだった。でももう、俺は遠くに引っ越すし……マジでごめん」

 項垂れて、顔が見えなくなって。私の瞳に映る申し訳なさそうな吾一の姿に苦しくなる。ようやく想いを伝えられたのに。せっかく両思いになれたのに。

「沙里?」

 う、と声を詰まらせて泣く私に気付いたのか、吾一の心配気な顔が上がった。

「沙里、大丈夫?」
「だいじょばないっ……」
「泣かないでよ」
「泣かなくない!ほっといて!」
「沙里!」

 その瞬間、抱きしめられて腹が立った。

 大嫌い、大嫌い。親の転勤に振り回されてしまう高校生なんか。大嫌い、大嫌い。好きな子を置いていなくなる吾一なんか。

 明日なんか来てほしくない。だから終われ世界、今この瞬間に。そして私たちふたりをこの時間(とき)に封じ込めて。

 しくしくと流れる涙は絶え間なく。おもむろに顔を上げた時、そこには柔和な笑顔があった。

「そろそろ時間だ、沙里。いつまでも泣いてねえで、ふたりでカウントダウンしようぜ」

 タイムリミットは近付いていた。大好きな人といられる、タイムリミット。

 そっちだって涙目になっているくせに、と胸板を小突いた。すると吾一はあははと笑い、額と額をくっつけた。

「5」

 いやだ。

「4」

 いやだいやだいやだ。

 そう強く思ったら、「好き!」と愛を叫んでいた。額を離し、間近で見つめる。涙しながら笑うなど、器用な技は使えない。

「吾一なんか大嫌い!一生大好き!」
「何それどっちだよ。俺の感情もてあそぶな」
「どうせもうすぐ地球はなくなるのに、引っ越しなんかする必要ある!?」
「なくならない可能性があるから、引っ越しせねばあかんのだなあ」

 ごめんごめん、と撫でられる頭。それは私の気持ちが落ち着くまで、何回だって繰り返された。

「3」

 そうして再開されたカウントダウンと共に、額は再び重なって。

「2」

 目を閉じて、吾一の低い掠れ気味の声を静かに聞いて。

「1」

 私は心の中でこう願うんだ。

「0」

 終われ世界、今この瞬間に。そして私たちふたりをこの時間(とき)に封じ込めて。