「うっそぴょん」

 そう言って、あっかんべーをした吾一の頭を、バチンと平手で叩いてやった。頭に血が昇るとはこれのこと。本気で本気でムカついた。

「あははは!マジだと思った?」
「お、思ってない!けど最っ低!」
「なんだよー。お前が言ってみろって言うから、望み通り言ってやったのに」

 いてえなあと頭を摩り、またもや彼はオーバーリアクション。これくらい痛いわけないくせに、と思ったけれど、ファッションの一部として身につけていた指輪に気づき、ちょっとだけ申し訳なく感じてしまった。

 やっぱり吾一には怒れない。だってどうしようもなく好きだから。

 明日には、この街を出て行ってしまう大好きな人。今日こそ絶対に、この想いを伝えなきゃ。

「わ、私は明日なんか来てほしくないっ」

 吾一が隣にいない明日なんか、そんなの寂しくて生きられない。だからもう、世界は終わってしまえばいい。

 私が予測している、もとい、願っている世界の終わりまではあと5分。波が引くようにして鎮まった怒りの代わりとして訪れたのは、途方もない切なさだった。

「吾一と会えなくなるのやだ。こうしてお喋りできなくなるのやだっ」

 腿の上、きゅっと握ったふたつの拳。ショートパンツから覗く自分の足が、ふるふると小刻みに震えているのがわかった。

「え、なんで?お前、俺の他に友達いねえの?」

 私の幼馴染みはへんてこな思考の持ち主でばかだから、これだけの勇気を振り絞ったとしてもちっとも伝わらない。はあ、と小さく溜め息を溢し、拳をさらに強く握る。