「吾一のばーか」
「え。なんで急に悪口」
「ばかばかばか。吾一のばか」
「ちょ、何、待て、いきなりついてけん」
「吾一は超ばかだって言ってんのー」
「はあ!?俺はまじもんの天才だぞ!」

 何その返し、と呆れ笑う。吾一を怒ろうとしても怒れない、憎もうとしても憎めないのは、当の然、私が彼に恋しているからだ。

「明日から離れ離れになっちゃうんだからさ、今日くらい嘘でも、沙里と一生一緒にいたかったとか言えし」

 本当は嘘じゃ困る。困るんだけど。

「引っ越したくねえ、明日なんか来てほしくねえ。沙里とこうして会えなくなるのまじ辛いとか、そう言ってみろし」

 それでも私は今、心底そんな言葉を欲している。

 ぷくっと頬を膨らませ、口を尖らせて、どういう表情をしていいかわからなくなった己の顔を誤魔化した。けれど吾一はそんな私を目にしても、平然と嗜好品を飲むから癪だ。

「引っ越したくねえ」

 かと思えば、急に真面目になって。

「沙里とこうして会えなくなんの、まじでつれえ。明日なんか来てほしくないから、今日世界が終わればいい」

 だなんて言うから、私の頬は萎んでいった。

「……それ、本気で言ってんの?」

 勇気を出して聞いてみた。ドキドキと騒ぐ心臓が、今にも胸から飛び出ていきそう。

 絡まる視線、息を飲む。ジジッと夜更かしな蝉が、少しだけ鳴いて止んだ。