「やばい。俺、超運いいかも」

 水の噴き出ていない、静かな噴水をぼうっと眺めながら、ベンチで待っていた私に差し出されたのは、夏季限定ブルーベリー味のチョコ。これは今話題のアイドルグループとコラボしているチョコで、購入するとそのアイドルの特別ライブへの抽選権が得られるためか、発売当初から売り切れ続出、幻の商品とも言われている。

「売り場に並んでんの、最後の1個だった。食べ終わったら箱だけ返せよ?そのバーコードは夢への切符だ」

 吾一は可愛い子ちゃんに弱いから、芸能人一般人にかかわらず、すぐに好き好き言うタイプ。公園の乏しい外灯の下、私はパッケージ裏を読み上げる。

「『ライブは12月25日開催予定。当選者への通知は、10月下旬頃を予定しております』だって。ほんとさ、みんな呑気なもんだよね。今年も当たり前のように、秋と冬が来るって思ってる」

 地球爆発ニュースに世間がパニックに陥ったのは、実際1ヶ月間もなかったと思う。世界にはさまざまな角度から物事を捉え、発信する専門家が沢山いるから、皆、地球爆発を否定する人間の言葉を信じたのだ。

 箱を持っているだけでも溶けそうなその中見。吾一と私の間の座面にチョコを置く。貴重な15分間のうち、5分は消化してしまった。

「俺もぶっちゃけ思ってるよ。秋と冬どころか、来年や再来年だって来ると思ってる」

 カコッと手元の缶を開けて、ひとくち喉へ通す吾一。

「だから今こうして沙里といつもみたいに、ダラダラとくだらねえこと喋ってんじゃん。もしも今日が世界の終わる日だったとしたら、みんな家族とかと過ごすんじゃねえ?さっき行ったコンビニの店員だって、普通の顔して働いてたぞ」

 そしてまた、ひとくち飲む。甘いものを好む私とは正反対に、苦いブラックコーヒーを嗜む彼へ、冷たい視線を投げつける。