後部の格納庫からフェニックスとニーズホッグが発進し、ケートスは地上に降り立った。ソールはフェニックスを旋回させて敵らしき軍勢に対峙した。
 ざっと数えただけで30機はいる。
 巨大な蜘蛛、角の生えた馬のようなものがある。金や銀色、青みがかったメタリックカラーのボディをしている。
 ソールはタッチパネルのボタンを押した。戦闘と同時に敵機のデータを収集するためだ。ところが、敵機をモニターが捉えると鈍い音とともにそれらのホログラムが出た。既に敵機のデータは入れられていたのだ。
「アポロンが入れていたのか?」
 いずれアルカディアと戦うことになると考えていたのだろうか? 蜘蛛はアラクネ、馬はユニコーンというらしい。いずれも実弾を使うようだ。ギリシア神話で語られていく幻獣たちである。
 ただ、敵軍の中央に巨大な兵器の情報はなかった。まるで犬が三つの首を持っているような……。
「あれが親玉か」
 ソールは戦闘や戦術に関しては不得手だが、なんとなくで検討はついた。
《ソール、アンドラ! 一気に叩くぞ!!》
 無線でそう伝えてきたフェンリルは、ニーズホッグを突進させ敵軍の中に突っ込んでいった。
《フェンリル、無茶するな!敵の数を考えろ!》
フェンリルは気が短く無鉄砲な性格で、ヨルムンガンドが止めない限りは無謀な猪突猛進な攻撃をするようだ。
 が、予想を裏切りニーズホッグは闊達な飛行でユニコーンとアラクネたちを翻弄した。敵が上空に向けて放つ光線や実弾をかいくぐると、今度は上空から青い光線を浴びせた。いや、光線というより吹雪のようなものだ。敵部隊がみるみるうちに凍り付いていく。
《冷凍光線か。冷却装置で大気を凍り付かせたんだな》
 ソールは昨日、ニーズホッグの内部を見たときに急速冷却装置があるのに気付いた。自機が被弾したときに冷却するのかと思っていたが、こういう使い方だったのだ。
「アンドラは大丈夫か……」
 ソールは地上に目をやった。ニーズホッグとは違い、旧式の陸上兵器をあり合わせの部品で修復したものだ。動く棺桶という例えは決して皮肉ではない。
 が、予想とは裏腹にアンドラは巧みにケートスを操っていた。新旧のアバリスの矢を交互に発射し敵を撃破していく。といっても、敵機を殲滅するより戦闘不能にする程度だ。
 ソールも、フェニックスを旋回させ敵に攻撃を仕掛けた。ユニコーンもアラクネも装備は実弾だけだ。グールヴェイグの3機は弾をかわし、あるいは防いで攻略していった。
「俺たちの敵ではないな」
 ソールがそう呟いたそのとき。
 ドンッ
 という音とともに、フェニックスの羽が貫かれた。
「なっ!?」
 多少油断していたとはいえ、弾を全く視認できなかった。どうやら、親玉の三つ首犬から発射されたようだ。
 片翼をやられたフェニックスはぐんぐん落下していく。が、地上に墜落する手前でその翼がオレンジ色に光り出して自動的に修復された。
《ソール、大丈夫か!?》
《ああ》
 フェニックスが自己修復機能を持っていたから助かった。が、これで敵にこの機体の性能がばれてしまった。
 地上を見下ろすと残ったのはあの親玉だけだ。
 ソールはタッチパネルを開き再度データを探した。が、やはり見当たらない。
「アポロンがアルカディアを離れた後に開発されたのか?」
 間合いを取りながら旋回していたら、突然、三つの犬の頭からそれぞれアバリスの矢、銅でコーティングされた大砲弾、歯車状のブレードが飛んできた。それもユニコーンやアラクネとは桁違いの速度だ。
 フェニックスはかわしたが、ケートスが足に、ニーズホッグが翼に被弾してしまった。
《アンドラ!フェンリル!ヨルムンガンド!!》
 ケートスは動きが止まり、ニーズホッグはバランスを崩して墜落した。
《ここまでだなゲリラども。俺はアルカディア陸軍司令官、ハーデス。このケルベロスでお前たちを殲滅する》
 ケルベロス――ギリシア神話に伝えられることになる、地獄の番犬である。
「マジか、ニーズホッグとはさみこんで倒そうと思っていたのに…」
 ケートスは最初からあてにならないというような、アンドラが聞けば怒り出しそうな思惑を捨て去り、ソールは操縦桿を引いて高度を上げ始めた。