フェニックスは、墜落したフレスヴェルグの近くに降り立った。
 片翼をもがれて勢いよく地表に激突したのに、フレスヴェルグは爆発しなかったのだ。
「よほど頑丈にできているか、ロキの悪運が強いかだな」
 あるいはその両方か、とフェニックスから降りながら思った。これで終わったんだな……。
 すると、フレスヴェルグの方からガランという音がした。ガラスの割れたコックピットから、見覚えのある男が転がり落ちた。
「ロキ!」
 肩を押さえながらロキは立ち上がる。
「ってて、お前には負けたよ。たいしたやつだ」
 口角を上げながらソールに言った。先ほどの激昂が嘘のようだ。しかしその目は相変わらず笑っていない。
「もうやめろ。お前のやっていることはただの醜い復讐だ。死んだ恋人だって喜ばないだろ」
 ソールは冷めたような口調でロキに言った。
「お前、どうやって知ったんだ?」
「どうだっていいだろ」
「ふ、ふははははっははは!」
 突然、ロキは腹を抱えて笑い転げた。
「何がおかしい?」
「お前はホント、たいしたやつだよ! どうやってオーディンから情報を聞き出したか知りたいね!」
 お前に言う義理はないとばかりに、ソールは肩をすくめる。
「なあソール、お前ホントに勝ったと思ってる?」
 まだ笑っている。
「頭でも打ったのか?」
「まさか」
 そう言いながら、ロキはポケットからボタンのスイッチを取り出した。ソールはとっさに身構える。
「最後の最後に、おもしろいドラマを見せてやるよ」
 ロキがボタンを押すと、フレスヴェルグの背中部分が開き、1本の剣のようなミサイルが現れた。
「レーヴァティンっていうんだ。このテュルフング・ミサイルをアスガルドにぶち込んでやるよ」
 ロキが狂気じみた笑みを浮かべるも、ソールは動じない。
「それ、ダミーだろ?」
 ロキの表情がこわばった。
「なぜ分かる!?」
「テュルフング・ミサイルを造るのは手間も暇もかかりすぎる。お前らのようなゲリラ組織がそういくつも造れるわけがないだろう」
 戦闘機に隠し持つ性能を開発するには時間が足りなすぎる。そもそも自分の搭乗する戦闘機にテュルフング・ミサイルを載せるのはリスクが高すぎるだろう。敵にばれたら真っ先に狙われることになるからだ。
「あーあ、お前と袂を分かったのは間違いだったなあ」
 残念そうに言いながら、顔はまだ笑っている。
「でもなソール、鋼の心臓を持つお前ならこんなブラフでも動じないけど、オーディンはどうかな?」
「あ? どういう意味だ?」
「あの男、人格者に見えて猜疑心が強いんだ。これだけ派手にドンパチやった後、またミサイルが飛来するとなったら何をしでかすかなあ?」
 そう言いながらボタンを押してミサイルを発射した。小型のミサイルが虚空に飛び去る。やがてフェニックスにイシュタムからの通信が入った。
《ソール、オーディンがバルムンクミサイルを発射したわ!!》
「何だって!?」
《またミサイルが飛んできたって、錯乱状態で発射ボタンを押してしまったわ!!》