一方、ソールの脳にも負担がかかり始めていた。
――キニチ…
(またあの記憶か)
 自分の父親の記憶だ。
父親はフン・カメーとヴクブ・カメーに殺害されている。サンギルドシステムのプロトタイプを開発した後、それを逃亡するヘリオスに託した。やがてアレクサンドリアにいたアポロンに、赤ん坊の自分とシステムのプログラムがわたったのだろう。
(父親か……)
 考えたこともなかった。物心ついたときからアポロンが親父代わりだった。それでも――肉親の温かみを知らなくても、家族のように接してくれた。
 だけどみんなもういない。家族のぬくもりはもう戻らないのだ。

 ロキはフレスヴェルグで攻撃を続けた。この状況でも戦闘を続けられるのは、さすがとしか言いようがない。
「くそっ!!」
 テュルフング・ミサイルの犠牲者の映像、泣き濡れたグールヴェイグ、血まみれのグールヴェイグの姿がどんどん脳裏によみがえってくる。
(どうぜなら、甘い夜の記憶を呼び出したかったぜ)
 しかしそれはかなわないらしい。何とも因果な精神攻撃だ。
「だが、負けるわけにはいかない!」
 あの日から復讐のためだけに生きてきた。目的を果たさずに死ねるか!!
 歯をくいしばり、操縦桿を握って攻撃を続けた。

――うわああん!
(今度は何だ!?)
 ソールの記憶のヴィジョンが変わった。2人の男の子が泣いている。その顔に見覚えがあった……。
(フェンリルとヨルムンガンドじゃないか!)
 2人は近くにいた大人の亡骸の前で泣いている。そこに、1人の男が現れた。
――坊やたち、どうしたんだ?
――おばさんが…フェンリルのママが死んじゃったんだ!
――ママーーー!!
 男――ロキはフェンリルの母親の遺体の前に花をたむけた。もう1人の男の子――ヨルムンガンドに向き直って尋ねた。
――君の母親は?
――この前死んじゃった。アスガルドの爆撃のせいで……。
――そうか。
 そう言うと、ロキは二人に言った。
――2人とも、俺と一緒に来ないか? 俺もアスガルドが嫌いなんだ。一緒にケンカしよう。
 2人の男の子はこくんとうなずき、ロキの後についていく。ゲリラ組織・グールヴェイグが誕生した瞬間だったのだろう。

(あいつらも辛い思いをしていたんだな…)
 ソールの目頭が熱くなった。
《ロキ、お前らの辛さは分かった。でも、これ以上ばかげたことはやめろ》
《ばかげただと!?》
 フレスヴェルグのアルティメットウェポンが同時に当たった。
(しまった!)
 やられたのはボディの左部分、かなりのダメージだ。自己修復だけでは間に合わない。
《オーディンは自分たちの都合のためにグールヴェイグを殺した! その報いを与えることのどこが悪い!!》
《こんなこと続けていたら、ずっと報復合戦になって終わらないだろう!!》
 さらに続ける。
《今の時代、科学技術は驚くほど発達した。でも、人間が欲望や感情に任せて技術を使い続けたら、ほとんどはろくでもない結果になるだけだ!!》
 言いながら、ソールはアポロンたちのことを思い出した。今でもゼウスを許す気にはならない。だが、自分の託されたサンギルドシステムで平和な世界を実現することが、アポロンの想いに応えることになると信じている。
「こんなくだらないこと……ここで終わりにしてやる!!」
 ソールはフレスヴェルグの攻撃をかわしながら近づいていった。ケツァルコアトルをかみつかせて牽制させる。やがてニアミスのようにすれ違った瞬間――切り札を発動した。
「プロミネンス・ボム、発動!!」
 フェニックスの尾の1本が外れ、フレスヴェルグの片翼に巻き付いた。
《な、何だ!?》
 ロキが叫ぶが、かまわずソールは続けた。
「これで終わりだ、ロキ」
 その尾が光り始めたかと思うと、強力な熱エネルギーを発して自爆した。
「ぐわああ!!」
 片翼を根元からもがれたフレスヴェルグは、近くの無人島に向けて墜落していく。フェニックスとケツァルコアトルも無人島に向かった。