ソール、ペルセウス、アーレスの3人はコックピットの中から通信で意識をすり合わせた。
 まず、敵の戦闘機は4機。相手パイロットの生存は気にせず撃墜する。これは理論的には難しくない。
問題はテュルフング・ミサイルだ。レーダーの反応から推測して10本はある。1本をつぶしたところで他の9本がアスガルドに着弾する。さらにミサイルは亜音速で飛来してくるときた。目視で発見してからでは遅いだろう。
《おいおい、どうすりゃいいんだ?》
 アーレスが冷や汗を流しながら言った。
《ここからは俺のアイデアがある。聞いてくれ》
ソールは、今日までに調べたテュルフング・エネルギーについて急ぎ足で話した。ミサイルを撃墜したからと言って、いきなり核爆発を起こすことはないという。なぜなら、テュルフング・ミサイルのほぼ全てがインプロージョンタイプだからだ。これは、爆弾内部に配置した複数の火薬装置が同時に爆発し、圧力を加えて核分裂を起こすものである。
 例えば高火力で迎撃すると爆発してある程度の放射能は出るが、インプロージョンタイプは内部で同時に圧力を加えないと核分裂を起こさない。テュルフング・エネルギーは技術的にも管理が困難なのである。
《敵機より先にミサイルが来るだろう。そしたら、グリフォンのケラウノス光線のフルチャージで消滅させてくれ。こぼれたヤツを他の3機で迎撃する》
《じゃあ順番は、グリフォン、ペガサス、フェニックスとケツァルコアトルか》
《ああ、なるべく少なくしてくれよ》
 言いながらソールはフェニックスのコンピューターパネルを叩いた。敵のミサイル――ダーインスレイブの形状はおおよそ見当が付いている。フェニックスのブレードに標的をプリセットし、すれ違いざまに迎撃するつもりだ。
 プリセットが終わった途端、警報が鳴った。
《おいでなすった! 頼むぜ、アーレス、ペルセウス!!》
《おう!》
《武運を祈る!》

 アーレス――。アルカディア空軍に入隊して10年。瞬く間にエースパイロットとして頭角をあらわし、トップガンの1人として世界最強の戦闘機・グリフォンを託された。以来、多くの敵を葬って武勲を立ててきた。しかし、飛来してくるミサイルを戦闘機で迎撃するなどやったことがない。
「半分以上は消し飛ばしたいな」
 アーレスは、口元を歪ませて目を凝らした。
「フルチャージ!」
 グリフォンの口が光り始めた。かつてフェニックスと戦ったときより、はるかにまばゆい光だ。
「発射!!」
 グリフォンの口から発射されたケラウノス光線の塊は、飛来してきたミサイルを包んだ。10本のうち半分ほどが音もなく蒸発した。ギリシア神話の雷霆となった光線は、見事に期待に応えたのだ。直後、生き残ったミサイルがグリフォンの横をかすめていく。
《5本は落とせたはずだ、ペルセウス、頼んだ!!》
 次はペガサスだ。こちらも、飛来してくるミサイルに照準を合わせ、ハルペー光線を発射した。グリフォンと違って直線状の光線なのでかなり不利だ。
 それでも2発当たった。推進力を失ったミサイルは、爆発せずに海に落下していく。
《残るは3発、ソール、任せたぞ!!》
 ソールにとっては嬉しい誤算だ。トップガン2人の腕をもってしても、5発は残ると思っていた。しかし実際には残り3発。希望が見えた。
《ブレード発射!!》
 プリセットしていたブレードは、すれ違いざまに2本のミサイルの胴体を切り裂き、海に落下させた。そして、残る1本を他のブレードが追跡する。
 しかし、そのブレードが途中で爆発した。
《何!?》
 ブレードが爆発する直前、横から何かが飛んできたのが見えた。犯人は明白だ。
《グールヴェイグ!!》
 遠目にニーズホッグらが見える。敵機が思ったより早く来た。まずい、敵機と交戦しながらダーインスレイブを追跡しなければ……!
 しかし、亜音速で飛んでいくミサイルを追いかけるスピードは、グリフォンにもペガサスにもフェニックスにもない。グリフォンの光線であれば破壊できるだろうが、既に目視できないほど遠くに行ってしまった。間に合わない!
 その時、ソールはハッとしてコックピットのパネルを叩いて操作を行った。
「ケツァルコアトル、追跡しろ!!」
 後方にいたケツァルコアトルの目が光り、元来た空域を戻るように、猛スピードでダーインスレイブを追跡した。
 スピードでいえば、ケツァルコアトルはアルカディア軍の中で抜きんでている。亜音速まで速度を上げ、ついにダーインスレイブに追いつき、横に並んだ。
 するとケツァルコアトルは胴体を回転させ、その翼でダーインスレイブを切断したのだ。
「よし!!」
 モニターで監視していたソールはガッツポーズをした。これで全てのミサイルを迎撃できた。