《お? ソールの声が聞こえるね。同じように偵察機で視聴しているんだね。なら話は早い》
 ロキは言葉を続けた。
《平和平和と理想論をかざして素晴らしいが、ここで和睦されると俺の目的が台無しなんでね。もうひと戦してもらうよ》
 すると、その偵察機の中から細い棒が現れた。長さ十センチほどのその棒は伸びていき、一メートルほどになる。
《相互確証破壊が成り立ってしまったらどちらも攻撃できない。だから均衡が続いているんだよね。だけど、このミステルティンで相互確証破壊を実現できたらもっと素晴らしいと思わないか?》
 ロキの高笑いが響く。
「ロキ、お前何するつもりだ!!」
《大きなテュルフング・ミサイルでにらみ合っていると攻撃できない。そこに、テロリストの小型核兵器が炸裂したらどうなるかなあ?》
 ヘラヘラとしながらも目が笑っていないロキの顔が浮かんだ。
《北欧の相互確証破壊を実現するプロジェクト、ラグナロク・オペレーション発動だ》
「やめろお!!」
 ソールの阻止もむなしく、小型のテュルフング・ボム――ミステルティンは爆発を起こした。その瞬間、その都市の一画が蒸発したように壊滅した。

 アスガルドに一気に緊張が走った。バルドル以下、交渉に出た一行の消息は不明、相手側も同様だった。
「消息不明って、あんなモノが近くで爆発すれば即死だろうが」
 ソールが呟く中、アルカディア軍の残ったメンバーのもとに知らせが届いた。
「大変だ! ニブルヘイムがテュルフング・ミサイルをアスガルドに発射した!!」
「何だって!?」
 最悪の事態だ。
「向こうは、アスガルドが小型爆弾を仕掛けたんだろうって! オーディン閣下との交渉も決裂し、発射ボタンを押してしまった!!」
(ロキの狙いはこれだったのか…!!)
 考えが甘かった。ロキはニブルヘイム側に付いたのではない。自分の目的のために、最初からニブルヘイムを利用するつもりだったのだ。
 ニブルヘイムの女王ヘルはもはや何が信用できるか分からなくなり、錯乱状態で発射ボタンを押したと推測できる。
 さらに凶報が届く。
「テュルフング・ミサイル、あと40分でアスガルドに着弾します!!」
(ロキの野郎!!)
 ソールははらわたが煮えくり返る思いだった。自分の復讐のために世界を巻き込みやがった!!
 するとアーレスが叫んだ。
「ペルセウス、ソール、出撃するぞ!!」
「おう!」
 もはや猶予は許されない。飛来してくるテュルフング・ミサイルとグールヴェイグの戦闘機を叩きつぶさねば……!!
「ソール!」
 格納庫に走るソールを、イシュタムが呼び止める。
「イシュタム」
「本当に出撃するの?」
 これまでの状況を見ていたイシュタムは大きな不安にかられた。今回の敵は、敵機以外にミサイルもある。本来整備兵であるソールが戦えるのか……。
「大丈夫さ。フェニックスとケツァルコアトルがあれば。それに、飛来するミサイルの攻略は俺がいた方がいいだろう」
 確かに、戦闘機パイロットのアーレスとペルセウスは、ミサイルを迎撃する経験はない。この場合はソールの智恵が必要になる。
「……死なないでね」
「ああ」
 そういうと、ソールは格納庫に走って行った。

 数分後、ペガサス、グリフォン、ケツァルコアトル、フェニックスの4機が、アスガルドを発進した。