敵はスルトの頭部を残すのみとなった。対してアスガルド・アルカディア連合隊はケルベロスのサンギルドファングボム1発、ヒュドラの砲身、スレイプニル5機だ。
《腕とは違う動きをするかもしれん。気をつけろ》
《ああ》
 ところがスルトの頭部は滞空したままで攻撃してこない。
《何だ、故障でもしたのか?》
 しかし次の瞬間、スルトが口を開けてスレイプニルに襲いかかった。
《うわあっ!》
 パイロットの絶叫ごと機体を食ってしまったのだ。
《まずい! 各個撃破をしてくるぞ!!》
 ポセイドンが叫んだが遅かった。スレイプニルは次々に食われ、残ったのは隊長のフレイだけになってしまったのだ。
(どうする!?)
 数秒考えた末、ポセイドンはひらめいた。
《フレイ殿、しばらくスルトを翻弄して、合図をしたらケルベロスに引きつけてくれ!》
《大丈夫か!?》
《ああ、信じてくれ!!》
《了解!!》
 フレイの操るスレイプニルはスルトの回りを旋回し始めた。その間に、ヒュドラは移動する。ちょうど、スルトとケルベロスの動線上だ。
《何する気だ、ポセイドン!?》
 ポセイドンの案はこうだ。スルトは近くにいる敵に反応して襲いかかるようにプログラムされているはずだ。それなら、ヒュドラとケルベロスに向かってくるように仕向け、先にヒュドラの残った氷のエネルギーをぶつける。その隙にサンギルドファングボムをぶつけるというものだ。
ヒュドラもここで完全燃焼させることにしたのだ。
《フレイ殿、10秒たったらこちらに向かってくれ!!》
《わかった!!》
《いくぞ、ハーデス!》
《ああ、頼むぜポセイドン》
 ついにスレイプニルが向かってきた。ヒュドラは砲身を構えてスルトに発射した。最後の力を振り絞った攻撃は、みるみるうちにスルトを凍らせていく。しかし、スルトは進撃をやめない。ついにスレイプニルに激突した。
《フレイ殿!》
《くそっ、あとは頼んだ……!!》
 その言葉は爆発に飲み込まれた。さらにスルトは、ヒュドラに激突して砲身を全て破壊した。
《うわあっ!!》
 ポセイドンの絶叫がしても、ハーデスは心を乱さない。皆が作ってくれたチャンスを無駄にしないために――。
「アルカディア軍をなめるなあ!!」
 最後のボムが飛び出し、スルトに噛みついた。そして内部にエネルギーを注ぎ込み、誘爆に成功した。
「やった!」
 しかしその大量の破片が、首のなくなったケルベロスに降り注いだ。
「ぐわあああああああ!!」

 敵は全て沈黙したことを確認するとともに、すぐさま救助隊が派遣された。
 アスガルド軍の被害はひどいものだった。空軍は全滅、陸海軍も8割がやられている。生存者も大なり小なり負傷していて、無事なものは1人もいなかった。
 そしてアルカディア軍は――。
「アルテミス、ハーデス、ポセイドンを救助しました。3人とも生存しています!!」
 救助隊の報告を聞き、ソールたちは胸をなで下ろした。さすがに世界最強の軍人たちである。あの状況で、脱出ポッドを作動させて身を守っていたのだ。
 しかしながら怪我はひどいもので、アルテミスは左腕と両足を骨折、ハーデスは背中に大やけど、ポセイドンは脳しんとうに加えてあばらを骨折している。気を失っているため、すぐに集中治療室に運ばれ、緊急手術が行われた。
 セイレーン、ケルベロス、ヒュドラは大破し戦闘不能に。アルカディアの戦力は半減したことになる。
「ここまでの消耗戦になるとはな……」
 アーレスですら眉間にしわを寄せてうなった。
 スルトとムスペルが襲撃してきたのは誤算だったが、何とか食い止められた。残るはニーズホッグ、スコル、ハティ、そしてフレスヴェルグだ。他にも戦力を保持しているかが気がかりだった。が、ソールからすれば、スルトのようなものをいくつも造るのは時間や資源の問題から不可能とのことだ。
対してアルカディア側はフェニックス、ペガサス、グリフォン、ケツァルコアトルで、空戦の戦力は欠けずに済んでいる。
「次はどう出てくるか……」
 最終決戦が近づいている。誰もがそう思っていた。しかし、事態はその2日後、予想外の動きを見せた。