「損傷はそんなにないようだな」
 ケツァルコアトルの周囲を回ってみる。ボディのあちらこちらが傷ついてはいるが、内部まではやられていないようだ。
 しかし、コックピット付近にライトを照らしたとき――2人は思わず絶叫した。
「うわあっ!」
「きゃあああっ!!」
 そこには人間の白骨が引っかかっていた。赤い髪の頭蓋骨には見覚えのある黒縁のメガネが……。
「フン・カメーの遺体か!」
 尊大で自惚れ屋だった男もこうなってしまっては形無しである。遺体となった今でも現世の科学技術に執着しているようだった。マヤ神話で語り継がれるように、地獄とも言える海底で無残な骸をさらしていたのだ。
「まったく、もったいないことだ……」
 ソールはフン・カメーが嫌いだった。しかし、ネオフラカンシステムを開発したその頭脳と技術には一目置いていたし、彼から学ぶことが多かったのも事実である。
――技術は善でも悪でもない。使う人間の心が決める。
亡きアポロンの言葉が、今再びソールの脳裏をよぎった。

 回収されたケツァルコアトルは、ソールの手によってすぐ修理されることとなった。
 まず、エンジンや機械系統の不具合を見つけ、回路などを交換する。次にボディの損傷を補修する。手際よく1日で済ませた。
 次の日はいよいよコックピットの修理だ。
「ソール、どうするつもりなんだ?」
 非番だったアーレスが修理工場を訪ねてきた。どのように改造されるか興味があるのだ。
「まず、カウィール・シナプス装置を取り外す」
 ソール曰く、あの装置は危険だという。ソール自身は記憶を呼び起こす作用に耐えられたが、それでも数分間気絶したのだ。ましてやパイロットを強引にサイコパスにすれば敵を全滅させた後に気を失って墜落するかもしれない。自他共に被害は大きくなるだろう。
 ところがカウィール・シナプスを外した後、座席も取り外したことには驚いた。
「おいおい、そんなことしていいのかよ」
 パイロットが乗れないぞ、とアーレスが突っ込む。
「ああ、それでいいんだ」
 ソールはコックピットに台座と球形の物体を載せ、コードをつないだ。
「それ何?」
「ネオフラカンシステムさ」
 アーレスは唖然とした。シバルバーの自動操縦技術だ。
「お前、いつ造ったんだ?」
「昨夜だよ。これでも真面目に研修していたんだぜ。小さいものなら造れるさ」
 フン・カメーたちのことだから、ネオフラカンシステムのノウハウなど丁寧には教えていないだろう。見よう見まねで造ったのだ。
「お前、天才だな……」
「物好きなだけさ」
 これでイシュタムは乗らなくて済むし、新しいパイロットを乗せる必要もない。ちなみにこのネオフラカンはフェニックスと連動するようになっているらしい。
 フェンリルがスコルとハティを同時に操縦していることからヒントを得たのだ。
「これで準備はできた。後はグールヴェイグがどう出るかだな」

 この2週間後……古代文明史上、世界はついに最悪の危機を迎える――。