ソールがペルセウスにロキの過去を話していたころ。北欧各地でグールヴェイグのテロが発生していた。
まず、ヨトゥンヘイムという軍事都市では軍港がニーズホッグの襲撃を受けた。
「うわあああ!!」
断末魔とともに砲台が凍結する。それをニーズホッグが体当たりして破壊した。ヨトゥンヘイムの戦闘機も出撃して応戦したがスペックの差が開きすぎている。青い竜の前になすすべもなく撃墜されていった。
ミズガルズという都市はスコル・ハティが襲撃した。この2機は飛び道具を持っていないが、ドッグファイトで高層ビルに突撃し、次々と崩落させたのだ。高層階から飛び降りる人が、地面にたたきつけられて木っ端みじんになるなど、地獄絵図さながらだ。
そしてビブレスト・エクスプレスという大きな橋をフレスヴェルグが襲撃した。これはアスガルドと北欧の同盟国をつなぐ大きな道路である。フレスヴェルグの大きなくちばしから、炎と吹雪を同時に発射してアスガルドの経済の動脈とも言える道を全て破壊したのだ。
「お疲れさん、ロキ」
帰還したフレスヴェルグからロキが降りてくると、フェンリルが出迎えた。
「めぼしいところへの攻撃は終わったな」
「さあて、今日はアンブロシア・ワインでも飲もうかね」
ロキは満面の笑みで皆に言った。顔は笑っているがその目は――相変わらず笑っていない。
グールヴェイグは今、ニブルヘイムの端にある廃棄された空港を拠点にしていた。空港といっても規模は小さく、滑走路は2本しかない。
「戦艦のカモフラージュを解いてしまったからねえ、みんなで移動できなくて苦労かけるね」
「「まったくだ」」
フェンリルとヨルムンガンドが呆れたように口を揃えた。ソールとの対戦でかっこつけてフレスヴェルグの正体を明かしたわけだが、戦艦そのものがなくなってしまったので全員まとめて移動できないのだ。おかげでロキはクルー全員からひんしゅくを買った。
ちなみにフレスヴェルグは北欧神話の鷲の巨人である。巨人と語り継がれていくわけなので、相応の大きさを誇っている。
現在、グールヴェイグの構成員はロキ、フェンリル、ヨルムンガンド、元クルーが数人と、ヴクブ・カメーという具合だ。戦闘機のパイロットは3人だけで、後はメカニックや後方支援を担当する。
ロキたちは食堂で早めの夕食をとった。冬のニブルヘイムはあっという間に暗くなる。午後4時半だというのに、もう薄暗い。
食事は近海で獲れた魚がメインだった。一通りのテロ行為が終わったお祝いをしたいところだが、ゲリラ組織の身なので贅沢は言っていられない。
クルーのうち整備士3人は機体の整備に取りかかっていた。エイトリ、シンドリ、ブロックの3人はロキと同じく元アスガルドの住人だ。小柄な民族の血筋だが、機械関係の技術が高く、軍では整備兵として働いていた。ソールが抜けた後にグールヴェイグに加入し、戦闘機の整備をすべて引き受けている。彼らは神話で小人(ドワーフ)などとして語り継がれていくことになる。
他にも、ウルズ、ヴェルザンディ、スイルドの3人の女性がいる。この3人はサイバーテロを行っていた。ノルンというコンピュータを使い、ラタトスクというアプリケーションでアスガルドの軍艦のミサイルコンピュータをハッキングし、同士討ちをさせたところだ。ラタトスクは神話に出てくるリスで、北欧世界のあちらこちらをチョロチョロと走り回る。世界を飛び回るインターネットの電波のような存在であった。
「みんなががんばってくれるから、目的の達成まであと少しだな」
ロキは満足そうに言った。目的とは――アスガルドの滅亡のことだ。
「だけど、北欧で一番でかい国を滅ぼすことなんてできるのか?」
フェンリルが首をかしげる。血気の多い彼は政治のことには疎いが、それでも世界有数の大国を滅ぼすことは容易ではないと分かる。米中露のいずれかを一介のゲリラ組織が滅亡させるなど、現代でも夢物語だろう。
「大丈夫さ――あ、エイトリ」
ロキは近くを通ったメカニックの1人を呼び止めた。
「例のもの、うまく進んでいるかい?」
「ああ、順調だ」
その小柄な老人は無愛想に言った。3人とも愛想がなく、いつもむっつりと仕事をしているが、整備兵としての腕は確かだ。
「ダーインスレイヴ・ミサイルの準備まであと少しだ」
「よし――ラグナロク・オペレーションもカウントダウンだな」
ロキは不敵に笑った。アスガルドへの復讐――悲願達成までもう少しとなると、彼の胸は高鳴った。
まず、ヨトゥンヘイムという軍事都市では軍港がニーズホッグの襲撃を受けた。
「うわあああ!!」
断末魔とともに砲台が凍結する。それをニーズホッグが体当たりして破壊した。ヨトゥンヘイムの戦闘機も出撃して応戦したがスペックの差が開きすぎている。青い竜の前になすすべもなく撃墜されていった。
ミズガルズという都市はスコル・ハティが襲撃した。この2機は飛び道具を持っていないが、ドッグファイトで高層ビルに突撃し、次々と崩落させたのだ。高層階から飛び降りる人が、地面にたたきつけられて木っ端みじんになるなど、地獄絵図さながらだ。
そしてビブレスト・エクスプレスという大きな橋をフレスヴェルグが襲撃した。これはアスガルドと北欧の同盟国をつなぐ大きな道路である。フレスヴェルグの大きなくちばしから、炎と吹雪を同時に発射してアスガルドの経済の動脈とも言える道を全て破壊したのだ。
「お疲れさん、ロキ」
帰還したフレスヴェルグからロキが降りてくると、フェンリルが出迎えた。
「めぼしいところへの攻撃は終わったな」
「さあて、今日はアンブロシア・ワインでも飲もうかね」
ロキは満面の笑みで皆に言った。顔は笑っているがその目は――相変わらず笑っていない。
グールヴェイグは今、ニブルヘイムの端にある廃棄された空港を拠点にしていた。空港といっても規模は小さく、滑走路は2本しかない。
「戦艦のカモフラージュを解いてしまったからねえ、みんなで移動できなくて苦労かけるね」
「「まったくだ」」
フェンリルとヨルムンガンドが呆れたように口を揃えた。ソールとの対戦でかっこつけてフレスヴェルグの正体を明かしたわけだが、戦艦そのものがなくなってしまったので全員まとめて移動できないのだ。おかげでロキはクルー全員からひんしゅくを買った。
ちなみにフレスヴェルグは北欧神話の鷲の巨人である。巨人と語り継がれていくわけなので、相応の大きさを誇っている。
現在、グールヴェイグの構成員はロキ、フェンリル、ヨルムンガンド、元クルーが数人と、ヴクブ・カメーという具合だ。戦闘機のパイロットは3人だけで、後はメカニックや後方支援を担当する。
ロキたちは食堂で早めの夕食をとった。冬のニブルヘイムはあっという間に暗くなる。午後4時半だというのに、もう薄暗い。
食事は近海で獲れた魚がメインだった。一通りのテロ行為が終わったお祝いをしたいところだが、ゲリラ組織の身なので贅沢は言っていられない。
クルーのうち整備士3人は機体の整備に取りかかっていた。エイトリ、シンドリ、ブロックの3人はロキと同じく元アスガルドの住人だ。小柄な民族の血筋だが、機械関係の技術が高く、軍では整備兵として働いていた。ソールが抜けた後にグールヴェイグに加入し、戦闘機の整備をすべて引き受けている。彼らは神話で小人(ドワーフ)などとして語り継がれていくことになる。
他にも、ウルズ、ヴェルザンディ、スイルドの3人の女性がいる。この3人はサイバーテロを行っていた。ノルンというコンピュータを使い、ラタトスクというアプリケーションでアスガルドの軍艦のミサイルコンピュータをハッキングし、同士討ちをさせたところだ。ラタトスクは神話に出てくるリスで、北欧世界のあちらこちらをチョロチョロと走り回る。世界を飛び回るインターネットの電波のような存在であった。
「みんなががんばってくれるから、目的の達成まであと少しだな」
ロキは満足そうに言った。目的とは――アスガルドの滅亡のことだ。
「だけど、北欧で一番でかい国を滅ぼすことなんてできるのか?」
フェンリルが首をかしげる。血気の多い彼は政治のことには疎いが、それでも世界有数の大国を滅ぼすことは容易ではないと分かる。米中露のいずれかを一介のゲリラ組織が滅亡させるなど、現代でも夢物語だろう。
「大丈夫さ――あ、エイトリ」
ロキは近くを通ったメカニックの1人を呼び止めた。
「例のもの、うまく進んでいるかい?」
「ああ、順調だ」
その小柄な老人は無愛想に言った。3人とも愛想がなく、いつもむっつりと仕事をしているが、整備兵としての腕は確かだ。
「ダーインスレイヴ・ミサイルの準備まであと少しだ」
「よし――ラグナロク・オペレーションもカウントダウンだな」
ロキは不敵に笑った。アスガルドへの復讐――悲願達成までもう少しとなると、彼の胸は高鳴った。