ワルハラ宮殿を訪れたグールヴェイグはオーディンに詰め寄った。
「どういうこと!? テュルフング・ボムはあくまで敵が手出しできない抑止力として配備するって言っていたわよね!? 約束が違うじゃない!!」
するとオーディンの横にいた男が静かに言った。男は、アスガルドの外交官でバルドルと言う。
「アルフヘイム、スヴァルトアルフヘイムの両国は、アスガルドの軍艦に攻撃を仕掛けて撃沈させた。その報復としてテュルフング・ボムを使用したのだ」
オーディンは静かに微笑んで付け加えた。
「先に攻撃したのはあの両国だ。こちらに落ち度はない」
それに対し、すかさずロキが口を挟む。
「しかしオーディン、軍艦の損害の報復にしてはやりすぎじゃないですか?」
困惑ぎみの表情だ。まるで裏切られた気分だった。
「君が口を挟むことではない。下がりなさい」
上官にそう言われてしまえば何もできない。2人はワルハラ宮殿を後にした。
―助けて! 熱いよ、苦しいよ!!
―体が腐っていくよおおお!!
―水、水をくれえええ!!
グールヴェイグはハッと目を覚ました。
「夢か……」
全身が汗でぐっしょりとなっている。それにしても嫌な夢だった。まるで地獄の亡者たちの断末魔に囲まれたような……。
「ロキ?」
一緒に寝ていたはずのロキがいない。不安になって寝室を出て、リビングに行ってみた。すると、ロキが何か映像を見ているようだ。
「ロキ、どうしたの?」
ロキはハッとして振り返った。見られたくないものを見られたような表情だ。グールヴェイグがその映像をのぞき込むと、顔が真っ青になった。
「何これ……」
そこに映し出されていたのは……全身が黒焦げになった遺体、皮膚が焼けただれて目玉が飛び出た遺体、川に沈んだ遺体だった。たった今見た夢が、映像として現実になっているようだ。
「……アルフヘイムとスヴァルトアルフヘイムの映像だ」
気まずそうにロキが答えた。爆弾が投下された両国の様子が気になり、小型偵察ロボットを飛ばして撮影しているのだ。
映像の遠くでは、何かが動いているように見える。人間の姿だったが、全身の皮膚が焼けただれて肉が剥き出しになっている。
「うっ……」
グールヴェイグは手で口を覆った。テュルフング・ボムのせいで、こんなことになるなんて……。
「私は何てことを……」
「君のせいじゃない、戦争を終わらせるためには仕方のないことだったんだ」
「違う!!」
グールヴェイグは叫んだ。
「私は……私は戦争を終わらせる盾としてテュルフング・ボムを造ったのよ!! こんな地獄をつくるためじゃない!!」
ついには大粒の涙をこぼして泣き出した。いずれやってくる平和を信じてがんばってきたのに……。どうしてこんなことになってしまったのか。
2人はベッドに戻ったが、その夜はあまり眠れなかった。
その次の日の夜、ロキとグールヴェイグはアスガルドを脱出した。
提案したのはグールヴェイグだった。しかし、最初は1人で逃げるつもりだった。
「このままじゃ、戦争のためにいいように使われてしまうわ。私は逃げる」
ロキは困惑した。
「でも、どこに行くんだい?」
「ニブルヘイムに行くわ。あそこなら亡命しやすいから」
ニブルヘイムはアスガルドの北西にある国で、現代でいうアイスランド島になる。ただ、治安が良くなくてあまりお勧めできない。
「それでも行くわ。これ以上、人殺しの道具にされたくないから」
グールヴェイグはすでに旅支度を整えてきている。夫には迷惑がかからないよう離婚届をテーブルに置いてきたそうだ。
「仕方ない」
「あなたともお別れね……残念だけど」
寂しそうなグールヴェイグの顔をロキは優しくなでた。しかしその口からは
「俺も行くよ」
という驚きの言葉が出た。
「ええ!?」
「危ない旅に1人で行かせるわけにはいかないよ」
「軍はどうするの?」
「脱走するさ」
おどけたように言うが、軍の脱走は罪が重い。下手をすると死刑になる。
「あなたを1人にしないよ」
「ロキ……」
唇を重ねると、ロキは急いで旅支度を始めた。脱出は、監視の目が行き届きにくい夜間とした。そして夜11時、2人はアスガルドから脱出した。
「どういうこと!? テュルフング・ボムはあくまで敵が手出しできない抑止力として配備するって言っていたわよね!? 約束が違うじゃない!!」
するとオーディンの横にいた男が静かに言った。男は、アスガルドの外交官でバルドルと言う。
「アルフヘイム、スヴァルトアルフヘイムの両国は、アスガルドの軍艦に攻撃を仕掛けて撃沈させた。その報復としてテュルフング・ボムを使用したのだ」
オーディンは静かに微笑んで付け加えた。
「先に攻撃したのはあの両国だ。こちらに落ち度はない」
それに対し、すかさずロキが口を挟む。
「しかしオーディン、軍艦の損害の報復にしてはやりすぎじゃないですか?」
困惑ぎみの表情だ。まるで裏切られた気分だった。
「君が口を挟むことではない。下がりなさい」
上官にそう言われてしまえば何もできない。2人はワルハラ宮殿を後にした。
―助けて! 熱いよ、苦しいよ!!
―体が腐っていくよおおお!!
―水、水をくれえええ!!
グールヴェイグはハッと目を覚ました。
「夢か……」
全身が汗でぐっしょりとなっている。それにしても嫌な夢だった。まるで地獄の亡者たちの断末魔に囲まれたような……。
「ロキ?」
一緒に寝ていたはずのロキがいない。不安になって寝室を出て、リビングに行ってみた。すると、ロキが何か映像を見ているようだ。
「ロキ、どうしたの?」
ロキはハッとして振り返った。見られたくないものを見られたような表情だ。グールヴェイグがその映像をのぞき込むと、顔が真っ青になった。
「何これ……」
そこに映し出されていたのは……全身が黒焦げになった遺体、皮膚が焼けただれて目玉が飛び出た遺体、川に沈んだ遺体だった。たった今見た夢が、映像として現実になっているようだ。
「……アルフヘイムとスヴァルトアルフヘイムの映像だ」
気まずそうにロキが答えた。爆弾が投下された両国の様子が気になり、小型偵察ロボットを飛ばして撮影しているのだ。
映像の遠くでは、何かが動いているように見える。人間の姿だったが、全身の皮膚が焼けただれて肉が剥き出しになっている。
「うっ……」
グールヴェイグは手で口を覆った。テュルフング・ボムのせいで、こんなことになるなんて……。
「私は何てことを……」
「君のせいじゃない、戦争を終わらせるためには仕方のないことだったんだ」
「違う!!」
グールヴェイグは叫んだ。
「私は……私は戦争を終わらせる盾としてテュルフング・ボムを造ったのよ!! こんな地獄をつくるためじゃない!!」
ついには大粒の涙をこぼして泣き出した。いずれやってくる平和を信じてがんばってきたのに……。どうしてこんなことになってしまったのか。
2人はベッドに戻ったが、その夜はあまり眠れなかった。
その次の日の夜、ロキとグールヴェイグはアスガルドを脱出した。
提案したのはグールヴェイグだった。しかし、最初は1人で逃げるつもりだった。
「このままじゃ、戦争のためにいいように使われてしまうわ。私は逃げる」
ロキは困惑した。
「でも、どこに行くんだい?」
「ニブルヘイムに行くわ。あそこなら亡命しやすいから」
ニブルヘイムはアスガルドの北西にある国で、現代でいうアイスランド島になる。ただ、治安が良くなくてあまりお勧めできない。
「それでも行くわ。これ以上、人殺しの道具にされたくないから」
グールヴェイグはすでに旅支度を整えてきている。夫には迷惑がかからないよう離婚届をテーブルに置いてきたそうだ。
「仕方ない」
「あなたともお別れね……残念だけど」
寂しそうなグールヴェイグの顔をロキは優しくなでた。しかしその口からは
「俺も行くよ」
という驚きの言葉が出た。
「ええ!?」
「危ない旅に1人で行かせるわけにはいかないよ」
「軍はどうするの?」
「脱走するさ」
おどけたように言うが、軍の脱走は罪が重い。下手をすると死刑になる。
「あなたを1人にしないよ」
「ロキ……」
唇を重ねると、ロキは急いで旅支度を始めた。脱出は、監視の目が行き届きにくい夜間とした。そして夜11時、2人はアスガルドから脱出した。