3日後。予定通りムスペルヘイムで初めての爆破実験が行われた。テュルフング兵器を世界で初めて開発したのがアスガルドなので、これが世界初の実験となる。
ムスペルヘイムは森だった。動物や虫が多様に生息し、木々も豊かに繁茂する生物の楽園だった。しかし……。
「3、2、1…」
ズドン、という音とともに、まばゆい光がムスペルヘイムを包んだ。まるで太陽が地上に降り立ったかのような強い光で、赤、オレンジ、黄色、紫と、あらゆる色の光がきらめいている。
「きれい……」
軍の幹部とともに実験に立ち会ったグールヴェイグはうっとりと眺めた。まるで芸術作品を見るかのようなまなざしだ。
「……あなたに合う夜景みたいだね」
ロキが耳打ちすると
「ふふっ」
と、はにかんで微笑んだ。
その後、ムスペルヘイムは1週間ほど燃え続けた。森の木々が燃え上がり、なかなか鎮火しなかったのだ。そこにいた動植物は全て死に絶えたと報告されたのは、さらに1週間後だった。本来は緑豊かだったムスペルヘイムは、この実験により、灼熱の炎の地として神話に名を残すこととなる。
「想像以上ね」
グールヴェイグが口に手を当てながら呟いた。
報告された写真を見ると、うさぎやきつねの眼孔から目が飛び出て、毛が焼けて皮はどろどろになっている。
「どうしました、グールヴェイグ博士?」
若い研究員が心配げに聞いてきた。
「いいえ、何でもないわ」
そうは言いつつも表情が曇っている。
科学者として未曾有の爆弾を開発した。おかげで、かつて自分を馬鹿にしていた連中は何も言えなくなっている。しかし、この爆弾が実際に使われると大量殺戮になってしまうのではないか?
「大丈夫だよ、グールヴェイグ」
20世紀の第二次世界大戦時、広島と長崎に原子爆弾が落とされた。その時原爆の開発計画である「マンハッタン計画」に関わった科学者たちは、自分たちが無差別殺戮兵器を造らされているなど知らなかった者が多い。後に事実を知った時、多くの者が良心の呵責にさいなまれた。グールヴェイグの心の片隅に、同様の葛藤が現れたのだ。
「大丈夫だよ、グールヴェイグ」
ロキが言った。
「ムスペルヘイムの実験も各国に映像が送られているみたいだし。あんなの見せられたら、どこもビビッて攻撃できない。つまりもう戦争は終結できるってことさ」
オーディンが言ったことをそのまま伝えた。
「そ、そうね……」
「もっと胸をはってくださいよ。テュルフング・ボムのおかげで、多くの命が救われるんだからさ」
陽気に笑うロキを見ると、自分の懸念も薄れてきた。やがていつものグールヴェイグの微笑みに戻った。
しかし……その楽観的な予想は見事に打ち砕かれることになる。
ある日、グールヴェイグはロキの家に泊まり、甘い夜を過ごした後にさわやかな朝を迎えた。裸の体にローブをまとってベッドをおり、自分のモバイル端末を立ち上げた。すると、目を疑うニュースのヘッドラインが飛び込んできた。
「アスガルド テュルフング・ボムを投下 アルフヘイムにホウズ スヴァルトアルフヘイムにゲイボルグ」
「何これ……」
アスガルドは北欧各国に実験を見せつけ、もはや武力攻撃を受け付けなくなったはずなのに……。
しかも投下された二つの爆弾は、グールヴェイグが自ら開発したものでもあった。
「ロキ!」
優しい日差しを切り裂くような甲高い声を出した。
「どうしたの?」
寝ぼけまなこで起きてきたロキに、グールヴェイグはモバイルを突きつけた。
「どういうことなの!?」
「……こっちが聞きたいよ!」
ロキはモバイルをひったくってまじまじと見た。テュルフング・ボムを投下だと!? オーディンが言っていたことと違う!!
ムスペルヘイムは森だった。動物や虫が多様に生息し、木々も豊かに繁茂する生物の楽園だった。しかし……。
「3、2、1…」
ズドン、という音とともに、まばゆい光がムスペルヘイムを包んだ。まるで太陽が地上に降り立ったかのような強い光で、赤、オレンジ、黄色、紫と、あらゆる色の光がきらめいている。
「きれい……」
軍の幹部とともに実験に立ち会ったグールヴェイグはうっとりと眺めた。まるで芸術作品を見るかのようなまなざしだ。
「……あなたに合う夜景みたいだね」
ロキが耳打ちすると
「ふふっ」
と、はにかんで微笑んだ。
その後、ムスペルヘイムは1週間ほど燃え続けた。森の木々が燃え上がり、なかなか鎮火しなかったのだ。そこにいた動植物は全て死に絶えたと報告されたのは、さらに1週間後だった。本来は緑豊かだったムスペルヘイムは、この実験により、灼熱の炎の地として神話に名を残すこととなる。
「想像以上ね」
グールヴェイグが口に手を当てながら呟いた。
報告された写真を見ると、うさぎやきつねの眼孔から目が飛び出て、毛が焼けて皮はどろどろになっている。
「どうしました、グールヴェイグ博士?」
若い研究員が心配げに聞いてきた。
「いいえ、何でもないわ」
そうは言いつつも表情が曇っている。
科学者として未曾有の爆弾を開発した。おかげで、かつて自分を馬鹿にしていた連中は何も言えなくなっている。しかし、この爆弾が実際に使われると大量殺戮になってしまうのではないか?
「大丈夫だよ、グールヴェイグ」
20世紀の第二次世界大戦時、広島と長崎に原子爆弾が落とされた。その時原爆の開発計画である「マンハッタン計画」に関わった科学者たちは、自分たちが無差別殺戮兵器を造らされているなど知らなかった者が多い。後に事実を知った時、多くの者が良心の呵責にさいなまれた。グールヴェイグの心の片隅に、同様の葛藤が現れたのだ。
「大丈夫だよ、グールヴェイグ」
ロキが言った。
「ムスペルヘイムの実験も各国に映像が送られているみたいだし。あんなの見せられたら、どこもビビッて攻撃できない。つまりもう戦争は終結できるってことさ」
オーディンが言ったことをそのまま伝えた。
「そ、そうね……」
「もっと胸をはってくださいよ。テュルフング・ボムのおかげで、多くの命が救われるんだからさ」
陽気に笑うロキを見ると、自分の懸念も薄れてきた。やがていつものグールヴェイグの微笑みに戻った。
しかし……その楽観的な予想は見事に打ち砕かれることになる。
ある日、グールヴェイグはロキの家に泊まり、甘い夜を過ごした後にさわやかな朝を迎えた。裸の体にローブをまとってベッドをおり、自分のモバイル端末を立ち上げた。すると、目を疑うニュースのヘッドラインが飛び込んできた。
「アスガルド テュルフング・ボムを投下 アルフヘイムにホウズ スヴァルトアルフヘイムにゲイボルグ」
「何これ……」
アスガルドは北欧各国に実験を見せつけ、もはや武力攻撃を受け付けなくなったはずなのに……。
しかも投下された二つの爆弾は、グールヴェイグが自ら開発したものでもあった。
「ロキ!」
優しい日差しを切り裂くような甲高い声を出した。
「どうしたの?」
寝ぼけまなこで起きてきたロキに、グールヴェイグはモバイルを突きつけた。
「どういうことなの!?」
「……こっちが聞きたいよ!」
ロキはモバイルをひったくってまじまじと見た。テュルフング・ボムを投下だと!? オーディンが言っていたことと違う!!