同じ頃、アレクサンドリアの上空では、1機の戦闘機が旋回していた。イカロスが乗ってきた人の顔を持つ鳥――パーピーだ。ギリシア神話では、人肉などを食い散らかす怪鳥として伝わっている。
「任務遂行しました」
《ご苦労だった》
イカロスは、アルカディアの司令室と連絡を取り合っていた。
「しかし、アポロンとその仲間たちには気の毒でしたね」
《余計なことは言わないでいい。軍人は任務を粛々と遂行するものだ》
「はっ!」
イカロスの任務はアポロンの説得、それが叶わなければ整備工場もろとも爆破して抹殺することだった。アルカディアの首脳部は、技術者であり元大臣の力が外にもれるのを早くから処理したかったのだ。
「気のすすまない任務だった。早く帰ろう」
ハーピーが大きく旋回して北に向けて進路をとった。そのときだった。
先程、爆弾を落とした地点から石の弾が飛んできた。
「何だ!?」
下を見やると、炎の中から何かが向かってくる――まるで、巨大な鳥のような……。
「戦闘機!?」
突進してきた赤い戦闘機――フェニックスを間一髪でかわし、ハーピーは体勢を立て直した。
「何だ、あれは!?」
イカロスは驚愕(きょうがく)した。彼の知る限りでは、空戦用の兵器を所有するのは、アルカディアと北欧のアスガルド、大西洋に浮かぶ都市・シバルバーだけである。
アレクサンドリアに戦闘機があるなど、聞いたことがない。
虚空に浮かんだ敵機は翼に炎をまとっている。イカロスは軍人としての決断をした。
「ちっ、敵であることは間違いない! 目標補足…排除開始!!」
ハーピーは肩にあたる部位からミサイルを放った。この時代の戦闘機に標準装備されている機関銃・アバリスの矢だ。
「うおっ!!」
フェニックスはかろうじて回避した。ソールはかなり焦っている。何故なら戦闘機に乗って空中に飛ぶのは経験があったが、実際に空戦をするのは初めてである。
「勢いに任せて飛び出したはいいけどどうするか……」
元々ソールは整備兵だ。機械は詳しいが通常の任務でコックピットに入って動かすのは滑走路で動かすときくらいだった。
「いや、アポロンの造った戦闘機ならどこに何のスイッチがあるか、分かるはずだ」
操縦桿の右グリップにあるボタンを押すと、ダダダッとアバリスの矢が発射された。
しかし、弾はハーピーにあっけなくかわされた。ハーピーは旋回して、今度は背中の筒から銃弾を発射した。アバリスの矢の改良型で、大きさも速度も旧式より優れている。
「ぐっ!」
かわしたがこのままではやられる。無理もない。相手は正式な訓練を受けたアルカディア空軍のパイロット。自分は戦闘経験のない整備兵。分がどちらにあるか、一目瞭然だった。
その予感はあっけなく的中した。ハーピーの動きについていけないフェニックスは、左翼に銃弾を受け、バランスを崩した。
「うわあっ!!」
そのまま失速し、地上に落下していく。
「ちくしょう! やっぱりだめだったのか……」
強力なGがかかる中、ソールの意識が遠のいていった。が、ハッと我に返った。
(いや待て、アポロンはアルカディア空軍に対抗するためにフェニックスを造ったはず。一流のパイロットでなくても、勝てるシステムが組み込まれているんじゃないか?)
ソールはコックピット内のボタンを探しまくった。ふと、右上の赤いボタンが目に留まった。
アポロンは重要なものを赤で表現する癖があった。迷わず押した。
あっけなく幕切れした空戦。しかし、イカロスの心中に一瞬不安がよぎった。
(飛行機能を失ったはずだ。なのに、何で嫌な予感がするんだ……)
落下していくフェニックスを見つめるイカロス。すると、その赤い戦闘機が全身にオレンジ色の光をまとい始めた。
「!?」
地上に激突しようとした寸前――フェニックスは頭部を上げ、再び虚空に上がってきた。
「そんなバカな!?」
さっき、ハーピーによって貫かれた左翼が――再生している!!
「そういうことだったのか……」
ソールは瞬時に理解した。
アポロンはフェニックスに機体自らが修復する機能・自己修復機能を付けていたのだ。サンギルドシステムが応用されているのだろう。とりあえず、完全に大破されない限り負けることはない。
「イカロスとか言ったな、いくぞ!」
フェニックスは急上昇してハーピーに襲いかかった。イカロスは急いで操縦桿を切ったが間に合わず、翼に衝撃をくらった。
「ぐっ、なんてやつだ! 普通の戦闘機のドッグファイトでも、ここまで近接しないぞ!!」
イカロスの言う通り、戦闘機の近接戦闘は、あくまで射程内に標的を入れるために、敵機を追いまくるものだ。翼で体当たりするなど、聞いたことがない。
《イカロスとか言ったな、なぜアポロンたちを殺した!?》
両機は虚空を旋回しながら間合いを取っている。
《軍人は命令に従うものだ、理由などない!!》
《そういうことならこっちにも考えがある!!》
フェニックスが上昇した。
「所詮はただの整備兵、戦闘機のバトルならこちらが上だ!!」
ハーピーを上に傾けたが、眼をつぶってしまった。太陽の光がまぶしい!!
「しまった、やつの狙いは目くらましか!!」
「みんなの仇だ、くらえ!!」
ソールは、フェニックスの尾・テイルブレードショットを分散して発射した。熱を帯びたブレードは真っ直ぐに飛ばず、旋回しながら標的であるハーピーに向かい、次々にボディを切り裂く。
「うわあっ!!」
アレクサンドリアの技術者たちを喰らった怪鳥は、炎に包まれて落ちていった。
「………」
ソールはその様を見届けていた。が、急降下してハーピーのコックピットを胴体から切り離すように弾を発射した。
横からの衝撃が加わり、コックピットは地面への直撃が緩和された。が、機体そのものは炎上して滑走路に落ちた後、大爆発を起こした。
「生きているな……」
ソールは、コックピットの人影が動いているのを確かめた後、東の空に飛び去っていった。
「任務遂行しました」
《ご苦労だった》
イカロスは、アルカディアの司令室と連絡を取り合っていた。
「しかし、アポロンとその仲間たちには気の毒でしたね」
《余計なことは言わないでいい。軍人は任務を粛々と遂行するものだ》
「はっ!」
イカロスの任務はアポロンの説得、それが叶わなければ整備工場もろとも爆破して抹殺することだった。アルカディアの首脳部は、技術者であり元大臣の力が外にもれるのを早くから処理したかったのだ。
「気のすすまない任務だった。早く帰ろう」
ハーピーが大きく旋回して北に向けて進路をとった。そのときだった。
先程、爆弾を落とした地点から石の弾が飛んできた。
「何だ!?」
下を見やると、炎の中から何かが向かってくる――まるで、巨大な鳥のような……。
「戦闘機!?」
突進してきた赤い戦闘機――フェニックスを間一髪でかわし、ハーピーは体勢を立て直した。
「何だ、あれは!?」
イカロスは驚愕(きょうがく)した。彼の知る限りでは、空戦用の兵器を所有するのは、アルカディアと北欧のアスガルド、大西洋に浮かぶ都市・シバルバーだけである。
アレクサンドリアに戦闘機があるなど、聞いたことがない。
虚空に浮かんだ敵機は翼に炎をまとっている。イカロスは軍人としての決断をした。
「ちっ、敵であることは間違いない! 目標補足…排除開始!!」
ハーピーは肩にあたる部位からミサイルを放った。この時代の戦闘機に標準装備されている機関銃・アバリスの矢だ。
「うおっ!!」
フェニックスはかろうじて回避した。ソールはかなり焦っている。何故なら戦闘機に乗って空中に飛ぶのは経験があったが、実際に空戦をするのは初めてである。
「勢いに任せて飛び出したはいいけどどうするか……」
元々ソールは整備兵だ。機械は詳しいが通常の任務でコックピットに入って動かすのは滑走路で動かすときくらいだった。
「いや、アポロンの造った戦闘機ならどこに何のスイッチがあるか、分かるはずだ」
操縦桿の右グリップにあるボタンを押すと、ダダダッとアバリスの矢が発射された。
しかし、弾はハーピーにあっけなくかわされた。ハーピーは旋回して、今度は背中の筒から銃弾を発射した。アバリスの矢の改良型で、大きさも速度も旧式より優れている。
「ぐっ!」
かわしたがこのままではやられる。無理もない。相手は正式な訓練を受けたアルカディア空軍のパイロット。自分は戦闘経験のない整備兵。分がどちらにあるか、一目瞭然だった。
その予感はあっけなく的中した。ハーピーの動きについていけないフェニックスは、左翼に銃弾を受け、バランスを崩した。
「うわあっ!!」
そのまま失速し、地上に落下していく。
「ちくしょう! やっぱりだめだったのか……」
強力なGがかかる中、ソールの意識が遠のいていった。が、ハッと我に返った。
(いや待て、アポロンはアルカディア空軍に対抗するためにフェニックスを造ったはず。一流のパイロットでなくても、勝てるシステムが組み込まれているんじゃないか?)
ソールはコックピット内のボタンを探しまくった。ふと、右上の赤いボタンが目に留まった。
アポロンは重要なものを赤で表現する癖があった。迷わず押した。
あっけなく幕切れした空戦。しかし、イカロスの心中に一瞬不安がよぎった。
(飛行機能を失ったはずだ。なのに、何で嫌な予感がするんだ……)
落下していくフェニックスを見つめるイカロス。すると、その赤い戦闘機が全身にオレンジ色の光をまとい始めた。
「!?」
地上に激突しようとした寸前――フェニックスは頭部を上げ、再び虚空に上がってきた。
「そんなバカな!?」
さっき、ハーピーによって貫かれた左翼が――再生している!!
「そういうことだったのか……」
ソールは瞬時に理解した。
アポロンはフェニックスに機体自らが修復する機能・自己修復機能を付けていたのだ。サンギルドシステムが応用されているのだろう。とりあえず、完全に大破されない限り負けることはない。
「イカロスとか言ったな、いくぞ!」
フェニックスは急上昇してハーピーに襲いかかった。イカロスは急いで操縦桿を切ったが間に合わず、翼に衝撃をくらった。
「ぐっ、なんてやつだ! 普通の戦闘機のドッグファイトでも、ここまで近接しないぞ!!」
イカロスの言う通り、戦闘機の近接戦闘は、あくまで射程内に標的を入れるために、敵機を追いまくるものだ。翼で体当たりするなど、聞いたことがない。
《イカロスとか言ったな、なぜアポロンたちを殺した!?》
両機は虚空を旋回しながら間合いを取っている。
《軍人は命令に従うものだ、理由などない!!》
《そういうことならこっちにも考えがある!!》
フェニックスが上昇した。
「所詮はただの整備兵、戦闘機のバトルならこちらが上だ!!」
ハーピーを上に傾けたが、眼をつぶってしまった。太陽の光がまぶしい!!
「しまった、やつの狙いは目くらましか!!」
「みんなの仇だ、くらえ!!」
ソールは、フェニックスの尾・テイルブレードショットを分散して発射した。熱を帯びたブレードは真っ直ぐに飛ばず、旋回しながら標的であるハーピーに向かい、次々にボディを切り裂く。
「うわあっ!!」
アレクサンドリアの技術者たちを喰らった怪鳥は、炎に包まれて落ちていった。
「………」
ソールはその様を見届けていた。が、急降下してハーピーのコックピットを胴体から切り離すように弾を発射した。
横からの衝撃が加わり、コックピットは地面への直撃が緩和された。が、機体そのものは炎上して滑走路に落ちた後、大爆発を起こした。
「生きているな……」
ソールは、コックピットの人影が動いているのを確かめた後、東の空に飛び去っていった。