「う……」
ソールは目を覚ましたとき、冷たい床を頬に感じた。
(何だか俺ってこんな仕打ちが多いな……)
頭をふって意識を覚醒させた。どこまで覚えているだろうか? まず、トールと模擬戦をやってフェニックスのサンギルドシステムをお披露目した。着陸しようとしたらニーズホッグが出てきて、さらには狼のような戦闘機も出てきた。で、追い立てられているうちに西の方へ逃げに逃げて途中で撃墜されて……
「そこからの記憶がない……」
腹減ったなあと思いつつ辺りを見渡した。腹が減っているのでけっこうな時間が経っているだろう。暗闇に目が慣れてくるとよろよろと立ち上がった。
「ん? 見覚えがあるな、ここ……」
はっとした。自分がアレクサンドリアから脱出した後に身を寄せた場所だった。
「グールヴェイグ戦艦!?」
「ご名答」
声の方を振り返った。そこにいたのは、笑顔の中に凍るような目を浮かべる端正な顔……。
「ロキ!!」
「やあ、久しぶりだな。活躍は方々で聴いているよ。元気にやっていたんだね」
手をあげてなれなれしく挨拶する様子は、相変わらず何を考えているか分からない。
「……かつての仲間を不意打ちで強制的に歓迎とはな」
ソールは引きつった笑みを浮かべた。あのときの直感は正しかった。こいつはやはり信用できない男だ。
「そうにらむなって。そうだ、久々に格納庫に来いよ。みんな会いたがっているぜ」
罠に決まっている。が、フェニックスもないし今の自分には他に選択肢がない。しぶしぶついていくことにした。
小さい戦艦なので格納庫まではすぐだ。そこには、ニーズホッグに先ほどの狼と、別にもう一機の狼がいた。フェニックスはその奥に鎮座している。そして、かつて一緒に戦ったフェンリルとヨルムンガンドら戦友もいた。
「よう久しぶり…ずいぶんなお出迎えだったな!」
笑顔で言うなり、ソールは突然フェンリルに殴りかかった。が、2人の間に見えない電気の壁のようなものが立ちはだかり、ソールはその場に倒れた。
「……ってて」
「悪いけど君からの教訓を生かして、新しい方法で拘束することにしたんだ」
この声も聞き覚えがある……奥の暗がりから出てきたのは……
「ヴクブ・カメー!!」
死んだんじゃなかったのか……!! いや、行方不明だったが死亡は確認されていなかった。それにしてもどういうことだ!?
「君は以前、僕らの作った拘束チョーカーを外してしまった。その教訓から、君を拘束するんじゃなくて君以外の人間を守ることにしたんだ」
発想の転換だよと微笑んだ。どういう経緯か知らんが、よりによって危険な2人が手を組んだ。最悪だ。
「フン・カメーの敵討ちか?」
「傲慢な兄貴のことなんてどうでもよいさ。このグールヴェイグの諸君と目的が同じだから、同盟を組んだんだ」
「目的だと……」
おおよその見当はついている。
「ソール……」
「断る」
きっぱりと言い放った。
「おいおい、まだ何も言っていないけど……」
「サンギルドシステムを利用させろ、だろ? ばかの一つ覚えか」
まあ聞けよ、とロキ。
「君は今アルカディアにいるんだろ? 何で師匠の敵であったところに身を寄せているんだ? しかもアルカディアは、俺たちの敵であるアスガルドと同盟関係だ。同じ敵同士仲良くしようじゃないか」
アスガルドが敵? 以前聞いたような記憶があるようなないような……。
「俺が嫌いなのは元首のゼウスだけだ。それ以外の連中はアポロンの意志を尊重してくれている。俺をお前らと一緒にするな」
じゃあしょうがないと、ヴブク・カメーはヘルメットのようなものを取り出した。
「な、何だそれ」
「君の頭脳にある記憶などを引き抜く機械だ。人体実験で成功済みさ。もっとも被験者はその後精神障害を起こして自殺したがね」
どこまで腐っている! 罵声を浴びせたものの体がまだ動かない。ヴブク・カメーはヘルメットをソールにかぶせた。が、ソールはとたんに体をひねって頭を床に打ち付け、ヘルメットを破壊した。
「な、何するんだ!!」
「そんな大事なものなら金庫にでもしまっておけよ!」
体が動く。ソールはフェニックスまで走り、コックピットに飛び乗った。
「よし、脱出だ!!」
機動させた……はずだが動かない。
「何でだ!?」
「ああ、ガイアの血はすべて空にしておいたから」
ロキがニヤニヤしながら言った。
やられた! フェニックスのスターターはガイアの血がなければ動かない。しかも改造したとき、ガイアの血を補給できなくしてしまっている。
「観念しなよ、ソール」
そのとき戦艦が傾いて格納庫の後ろのハッチが開いた。固定していなかったフェニックスはそこからソールもろとも滑り落ちてしまった。
「うわあっ!!」
虚空にフェニックスの赤い翼が舞った。しかしその翼はもう空を飛べない。
「あーあ、もったいないことしたなあ」
ロキが独り言のようにつぶやいた。
「説得できなかったら殺すっていったのは君だろう」
ヴブク・カメーが文句を言う。
「ま、しょうがないか」
そう言って落ちていくフェニックスを見ていた2人だが、表情がこわばった。突然、フェニックスの胴体が光り始めたのだ。
ソールは目を覚ましたとき、冷たい床を頬に感じた。
(何だか俺ってこんな仕打ちが多いな……)
頭をふって意識を覚醒させた。どこまで覚えているだろうか? まず、トールと模擬戦をやってフェニックスのサンギルドシステムをお披露目した。着陸しようとしたらニーズホッグが出てきて、さらには狼のような戦闘機も出てきた。で、追い立てられているうちに西の方へ逃げに逃げて途中で撃墜されて……
「そこからの記憶がない……」
腹減ったなあと思いつつ辺りを見渡した。腹が減っているのでけっこうな時間が経っているだろう。暗闇に目が慣れてくるとよろよろと立ち上がった。
「ん? 見覚えがあるな、ここ……」
はっとした。自分がアレクサンドリアから脱出した後に身を寄せた場所だった。
「グールヴェイグ戦艦!?」
「ご名答」
声の方を振り返った。そこにいたのは、笑顔の中に凍るような目を浮かべる端正な顔……。
「ロキ!!」
「やあ、久しぶりだな。活躍は方々で聴いているよ。元気にやっていたんだね」
手をあげてなれなれしく挨拶する様子は、相変わらず何を考えているか分からない。
「……かつての仲間を不意打ちで強制的に歓迎とはな」
ソールは引きつった笑みを浮かべた。あのときの直感は正しかった。こいつはやはり信用できない男だ。
「そうにらむなって。そうだ、久々に格納庫に来いよ。みんな会いたがっているぜ」
罠に決まっている。が、フェニックスもないし今の自分には他に選択肢がない。しぶしぶついていくことにした。
小さい戦艦なので格納庫まではすぐだ。そこには、ニーズホッグに先ほどの狼と、別にもう一機の狼がいた。フェニックスはその奥に鎮座している。そして、かつて一緒に戦ったフェンリルとヨルムンガンドら戦友もいた。
「よう久しぶり…ずいぶんなお出迎えだったな!」
笑顔で言うなり、ソールは突然フェンリルに殴りかかった。が、2人の間に見えない電気の壁のようなものが立ちはだかり、ソールはその場に倒れた。
「……ってて」
「悪いけど君からの教訓を生かして、新しい方法で拘束することにしたんだ」
この声も聞き覚えがある……奥の暗がりから出てきたのは……
「ヴクブ・カメー!!」
死んだんじゃなかったのか……!! いや、行方不明だったが死亡は確認されていなかった。それにしてもどういうことだ!?
「君は以前、僕らの作った拘束チョーカーを外してしまった。その教訓から、君を拘束するんじゃなくて君以外の人間を守ることにしたんだ」
発想の転換だよと微笑んだ。どういう経緯か知らんが、よりによって危険な2人が手を組んだ。最悪だ。
「フン・カメーの敵討ちか?」
「傲慢な兄貴のことなんてどうでもよいさ。このグールヴェイグの諸君と目的が同じだから、同盟を組んだんだ」
「目的だと……」
おおよその見当はついている。
「ソール……」
「断る」
きっぱりと言い放った。
「おいおい、まだ何も言っていないけど……」
「サンギルドシステムを利用させろ、だろ? ばかの一つ覚えか」
まあ聞けよ、とロキ。
「君は今アルカディアにいるんだろ? 何で師匠の敵であったところに身を寄せているんだ? しかもアルカディアは、俺たちの敵であるアスガルドと同盟関係だ。同じ敵同士仲良くしようじゃないか」
アスガルドが敵? 以前聞いたような記憶があるようなないような……。
「俺が嫌いなのは元首のゼウスだけだ。それ以外の連中はアポロンの意志を尊重してくれている。俺をお前らと一緒にするな」
じゃあしょうがないと、ヴブク・カメーはヘルメットのようなものを取り出した。
「な、何だそれ」
「君の頭脳にある記憶などを引き抜く機械だ。人体実験で成功済みさ。もっとも被験者はその後精神障害を起こして自殺したがね」
どこまで腐っている! 罵声を浴びせたものの体がまだ動かない。ヴブク・カメーはヘルメットをソールにかぶせた。が、ソールはとたんに体をひねって頭を床に打ち付け、ヘルメットを破壊した。
「な、何するんだ!!」
「そんな大事なものなら金庫にでもしまっておけよ!」
体が動く。ソールはフェニックスまで走り、コックピットに飛び乗った。
「よし、脱出だ!!」
機動させた……はずだが動かない。
「何でだ!?」
「ああ、ガイアの血はすべて空にしておいたから」
ロキがニヤニヤしながら言った。
やられた! フェニックスのスターターはガイアの血がなければ動かない。しかも改造したとき、ガイアの血を補給できなくしてしまっている。
「観念しなよ、ソール」
そのとき戦艦が傾いて格納庫の後ろのハッチが開いた。固定していなかったフェニックスはそこからソールもろとも滑り落ちてしまった。
「うわあっ!!」
虚空にフェニックスの赤い翼が舞った。しかしその翼はもう空を飛べない。
「あーあ、もったいないことしたなあ」
ロキが独り言のようにつぶやいた。
「説得できなかったら殺すっていったのは君だろう」
ヴブク・カメーが文句を言う。
「ま、しょうがないか」
そう言って落ちていくフェニックスを見ていた2人だが、表情がこわばった。突然、フェニックスの胴体が光り始めたのだ。