――キニチ・アハウ、システムはどうなっている?
――まだまだ実用には遠いな。
――そういやお前の赤ん坊が託児室で泣いていたぞ。行ってやった方がいいって。
――先に言えよそれを。

――…元気か? ありゃりゃ、おむつが濡れているな。替えないとな。
――あぶぶぶ。
――気持ち悪かったな。もう大丈夫だ。
――子煩悩だな、キニチ。
――そりゃあ、妻が命と引き換えに遺してくれた息子だ。大事に育てないとな。

――フン・カメー、ヴクブ・カメー。どういうことだ? 太陽システムはまだ完成していないぞ? それなのにエネルギーシステムに導入するなんて。
――大丈夫。このフン・カメーが手を貸してやるんだから、絶対うまくいくさ。
――その自信はどこから来るんだ?
――まあ、そういうわけで太陽システムの設計図を見せてくれるか?
――断る。
――何だと
――やはりまだ見せられる状態じゃない。もう少し待ってくれ。

――まずい、キニチ! フン・カメーの奴、力ずくで設計図を奪おうとしているぞ!!
――ヘリオス! この研究所から脱出するぞ!! 
――おい、赤ん坊抱えて大丈夫か!?
――やるしかないだろ!!

――キニチ、逃げろ!
――ばかいえヘリオス、お前こそ逃げろ!!
――意固地になるな! てめえが死んだら赤ん坊はどうなる!!
 キニチという男は、もう一人の男――ヘリオスに赤子を押しつけた。
――だったらお前がこいつを連れて逃げろ!!
 キニチは足でヘリオスを蹴って逃がした。
――キニチ!!!
――ぐあああああああああああああ!!!
――キニチ!! お前の子…ソールを置いて逝くな!!

 ソールはハッと目を覚ました。
 一体どれくらいの時間が流れたのだろう。そばにはイシュタムがいる。
「ソール、大丈夫?」
「いたた、俺はどのくらい気絶していたんだ?」
「2、3分よ」
 イシュタムに抱きかかえられ、ソールは身を起こした。
「変な夢を見た。この前見たものをより鮮明にした夢だ…」
「それ、きっと夢じゃないわ。脳の底の記憶をひっくり返されたのよ」
 イシュタム曰く、あの2体の光線は脳の底にあった記憶を強引によびおこして精神を攪乱させるものらしい。
「通常の人間ならうつ状態やパニックになるんだけど…あなたは平気なの?」
 心配そうにソールを見つめる。
「何だか知らんが無神経なタイプの人間には効かないのだろう」
 声がする方をハッと見上げた。そこには見慣れた戦友・ペルセウスが立っていた。
「ペルセウス、何でここに?」
「研究所から港までの動線が確保できたから研究所の入り口で待ち伏せしていたんだ。なのにお前は出てこない。お前のコンピュータは壊れたのか連絡がつかない。おまけに中からドンパチやる音が聞こえたから、これはもう踏み込んだ方がいいと判断したのさ」
 ペルセウスはソールに肩を貸してやりイシュタムの方を見た。
「一緒に逃亡中のようだな。俺はこいつを抱えて走る。あなたも走れるか?」
「はい」
「ではいくぞ」
 言うなり2人と抱えられた1人は出口に向かって全力ダッシュした。