「うわあああああっ!!!!!」
 ソールはベッドから跳ね起きた。
「ど、どうしたの?」
 隣のベッドで寝ていたイシュタムも目を覚ました。
「あー胸くそ悪い夢見た」
 全身にびっしょり汗をかいている。体中の血管の血が逆流しそうだった。
「この装置のせいか?」
 イシュタムは記憶を呼び起こすと言ったが、そうだとするとあの夢はソールの記憶ということか……?
「ん?」
 ソールは自分の首を見た。チョーカーがちぎれて転がっている。
「やった、これで自由に動ける!」
「うそ、そんな……」
 イシュタムは信じられないという顔だ。
「あまりに脳が激しく揺さぶられたから、チョーカーが耐えきれなくなったんじゃないのか? いずれにしてもチャンスだ」
 ソールは脱出するためにすぐさま外に出ようとしたが……
「そうだ、いいことを考えたぜ」
 悪どいいたずらを思いついたような不敵な笑みを浮かべた。

翌日、フン・カメーがやってきた。
「どうだ、われわれに協力する気になったか?」
 ソールは立ち上がって手を挙げた。降参のポーズだ。
「分かったよ、あんたらには叶わないさ」
「ふん、分かったならいいんだよ。さあついて来い。ネオフラカンに君の技術を組み込んでやろう。光栄に思えよ」
 相手を見下したような笑みを浮かべ、フン・カメーは出口に向き直った。その瞬間、ソールは飛びかかって渾身の力で後頭部を殴りつけた。
「ぐあっ!!」
 フン・カメーはドカッと倒れ込んだ。
「何をする!! こんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
 フン・カメーは持っていたチョーカーのリモコンを押した。
「え?」
 どうしたことか電流が流れない。
「このチョーカーはただのチョーカーだ」
 ソールは自分の首に巻いていたチョーカー――ダミーのチョーカーを放り捨て、再び殴りかかった。その拳にはあり合わせの金属で作ったメリケンサックが握られている。
「ぐえっ!!」
 頬の次は腹、あごと殴りつけた。
 軍人ほどではないが実はソールは多少荒事の心得がある。アレクサンドリアにいた頃は重い機器などを運ぶことも多かったため、平均男性より腕力があるのだ。
 それに対し、フン・カメーは自動化に頼った生活を送って肉体が衰えているはずだ。肉弾戦なら自分に分があると踏んだのだ。
 もっともソールは争い事が好きではない。が、自分に対してこの仕打ちをしたフン・カメーには数倍にして報復しなければ気が済まなかった。
 やがてフン・カメーは目をまわして気を失った。
「イシュタム、もういいぞ」
 イシュタムはその合図で自分のチョーカーを外した。ソールは、意外に簡単に外れた電流チョーカーを見てイシュタムのも外れると考えた。思った通り、繊維の薄い箇所があったので上手く解体できた。
「ソール、何もここまでやらなくても……」
「俺は人は殺さない主義だが、やられたことは殺さない程度にやりかえす主義なんだよ」
 そう言うと今度はフン・カメーの手首足首を縛って口を猿ぐつわにした。そして呆れるイシュタムの手を引いて部屋を脱出した。