「ソールを探しに行くぞ」
ペルセウスは詰め所で言った。連絡が来なくなって2週間になる。行方不明者の捜索という名目で行くことにしたのだ。
「それは軍の仕事ではないだろう。向こうの警察にやってもらうしかない」
冷静にポセイドンが釘を刺した。
「やると思うか? 頼んでも流されるのがオチだ。それならプライベートを装っていく」
「1人で行くのか? 俺も……」
「私も行くわ」
「ここにいる皆が行くのか? アルカディアの警備はどうする?」
ポセイドンを除く全員が行きそうな勢いだ。
「メンバーを選抜した方がいい。ペルセウスとアルテミス。アーレスと他のセイレーン部隊、私は残ろう」
陸海空の警備のバランスを考えた采配である。
「ハーデスはどうする?」
「行けんことないが、俺が行って役に立つのか?」
ハーデスは自信がなさそうだった。戦闘ならともかく諜報活動の類は向いていないらしい。
「海軍から小型戦艦を出そう。シバルバー近海で演習するという名目でな」
こうしてソール捜索隊が結成された。
「ん? これ何?」
ソールはイシュタムの枕元にある物体に気がついた。黒い箱からひもが伸び、その先に吸盤のようなものが付いている。
「これ、今研究している装置なんだ。カウィール・シナプス装置って名付けたの」
人間の脳に残っている記憶を呼び起こすものらしい。人間は成長するにつれて3歳までの記憶をなくしてしまうというのが通説である。が、イシュタムによると脳内の発火現象を分析したところ記憶をなくすのではなく「奥にしまいこむ」のではないかとの仮説にいきついた。そのしまいこんだ記憶を呼び起こせないかというものなのだ。
ちなみに、カウィールとはマヤ神話の雷の神だ。シナプスと付いているから、脳内の発火現象を雷に例えたものというわけだ。
「実験してみたのか?」
「ううん、最近できたばかりだから」
「自分で試さないのか?」
するとイシュタムはうつむいてしまった。
「私、ガラスのハートだから怖いの…」
ピンと来なかったが、やがて繊細な性格だということに気付いた。探究心が高じて開発したものの使うことには躊躇しているようだな――
「ふーん、じゃあ俺が使っていいか?」
「え?」
イシュタムは目を見開いた。
「大丈夫? 怖くないの?」
「知らん。けど、このまま捕虜状態なのも退屈だしやってみるさ」
何が起こるか分からないわよ、という声をまともに聞かず、ソールは吸盤を頭に付けて「じゃ、おやすみ」とベッドに転がった。そのまま眠ってしまうまで5分とかからなかった。
――キニチ・アハウ、システムはどうなっている?
――まだまだ、実用には遠いな。
(ん? 夢か?)
――そういや、お前の赤ん坊が託児室で泣いていたぞ。行ってやった方がいいって。
――先に言えよそれを。
はっきりしない意識で会話の主の顔を見た。ひげがもしゃもしゃの男だった。
(何だか懐かしい……)
刹那、場面が急に変わって騒がしくなった。
――キニチ、逃げろ!
――ばかいえヘリオス、お前こそ逃げろ!!
――意固地になるな! てめえが死んだら赤ん坊はどうなる!!
キニチという男は、もう一人の男――ヘリオスに赤子を押しつけた。
――だったらお前がこいつを連れて逃げろ!!
キニチは足でヘリオスを蹴って逃がした。
――キニチ!!!
――ぐあああああああああああああ!!!
ペルセウスは詰め所で言った。連絡が来なくなって2週間になる。行方不明者の捜索という名目で行くことにしたのだ。
「それは軍の仕事ではないだろう。向こうの警察にやってもらうしかない」
冷静にポセイドンが釘を刺した。
「やると思うか? 頼んでも流されるのがオチだ。それならプライベートを装っていく」
「1人で行くのか? 俺も……」
「私も行くわ」
「ここにいる皆が行くのか? アルカディアの警備はどうする?」
ポセイドンを除く全員が行きそうな勢いだ。
「メンバーを選抜した方がいい。ペルセウスとアルテミス。アーレスと他のセイレーン部隊、私は残ろう」
陸海空の警備のバランスを考えた采配である。
「ハーデスはどうする?」
「行けんことないが、俺が行って役に立つのか?」
ハーデスは自信がなさそうだった。戦闘ならともかく諜報活動の類は向いていないらしい。
「海軍から小型戦艦を出そう。シバルバー近海で演習するという名目でな」
こうしてソール捜索隊が結成された。
「ん? これ何?」
ソールはイシュタムの枕元にある物体に気がついた。黒い箱からひもが伸び、その先に吸盤のようなものが付いている。
「これ、今研究している装置なんだ。カウィール・シナプス装置って名付けたの」
人間の脳に残っている記憶を呼び起こすものらしい。人間は成長するにつれて3歳までの記憶をなくしてしまうというのが通説である。が、イシュタムによると脳内の発火現象を分析したところ記憶をなくすのではなく「奥にしまいこむ」のではないかとの仮説にいきついた。そのしまいこんだ記憶を呼び起こせないかというものなのだ。
ちなみに、カウィールとはマヤ神話の雷の神だ。シナプスと付いているから、脳内の発火現象を雷に例えたものというわけだ。
「実験してみたのか?」
「ううん、最近できたばかりだから」
「自分で試さないのか?」
するとイシュタムはうつむいてしまった。
「私、ガラスのハートだから怖いの…」
ピンと来なかったが、やがて繊細な性格だということに気付いた。探究心が高じて開発したものの使うことには躊躇しているようだな――
「ふーん、じゃあ俺が使っていいか?」
「え?」
イシュタムは目を見開いた。
「大丈夫? 怖くないの?」
「知らん。けど、このまま捕虜状態なのも退屈だしやってみるさ」
何が起こるか分からないわよ、という声をまともに聞かず、ソールは吸盤を頭に付けて「じゃ、おやすみ」とベッドに転がった。そのまま眠ってしまうまで5分とかからなかった。
――キニチ・アハウ、システムはどうなっている?
――まだまだ、実用には遠いな。
(ん? 夢か?)
――そういや、お前の赤ん坊が託児室で泣いていたぞ。行ってやった方がいいって。
――先に言えよそれを。
はっきりしない意識で会話の主の顔を見た。ひげがもしゃもしゃの男だった。
(何だか懐かしい……)
刹那、場面が急に変わって騒がしくなった。
――キニチ、逃げろ!
――ばかいえヘリオス、お前こそ逃げろ!!
――意固地になるな! てめえが死んだら赤ん坊はどうなる!!
キニチという男は、もう一人の男――ヘリオスに赤子を押しつけた。
――だったらお前がこいつを連れて逃げろ!!
キニチは足でヘリオスを蹴って逃がした。
――キニチ!!!
――ぐあああああああああああああ!!!