メインラボには多くの科学者と技術者がいた。しかし、それ以上にいたのは研究を手伝うロボットたちだ。
「ネオフラカンシステムで人工知能を開発したんだ」
 自慢気にフン・カメーが話す。
曰く、自動化のほか天候を自在に操る、動植物を原子レベルで配列を変えることも研究されているらしい。ことごとく自然を超えたということをアピールしたいのだろう。
「すまないね、兄貴は自分の研究に誇りを持っているから自慢したいんだよ」
 ヴクブ・カメーが苦笑いしながら言った。誇りというより自意識過剰という印象が強いのだが……。
「ところで、ネオフラカンって何か欠点や課題はないんスか?」
 ソールはしれっと聞いてみた。
「何を言う! 欠点も課題もない、完璧な技術だ!!」
 フン・カメーが目をつり上げて怒鳴った。
「君はネオフラカンを何も分かっちゃいない!」
 いや、分かっていないからこうやってきて研修を受けようとしているんだけど……。
「兄貴、彼も別に悪気があるわけじゃないからさ、落ち着けよ」
 なだめるヴクブ・カメー。
「別にないならいいんですけど。でも、どんな技術も常に課題は出て来るものなんで。現に、俺の管理しているサンギルドシステムもそうだから」
「サンギルドシステム?」
 初めて聞くような顔をする2人。ここに来る前に研修の意図を伝えたが、その文面にサンギルドシステムも書いていたのだ。読んでないのか?
 仕方なくソールは概要を説明した。すると、フン・カメーはさほど興味を示さなかったがヴクブ・カメーがくいついてきた。
「それができるなら、エネルギーを無限に作れるね」
 感心したように呟く。一方、フン・カメーは
「太陽の恩恵なんてな。古代人の宗教じゃあるまいし」
 と言い捨て肩をすくめて出て行ってしまった。
(どんだけうぬぼれやなんだ?)
 その夜、ソールは自室で報告のメールを打った。
「初日の研修。とりあえず自己紹介。先方の研究者は優秀だが性格に問題有り。気を付ける、と……」

「ねえペルセ。ソールはちゃんとやっているかな?」
 アンドラが、帰宅したペルセウスに言った。
「まあ、3日に1回はメールが来ているからちゃんとやっているにはいるようだ」
 ただ、そのメールが短い上に技術的なことばかりだから具体的な研修は暗号のように読み解かなければならない。
 例えば、自動化プログラムのバグがなんたらだの、なんとかコードの解析に6時間だの……。
「何それ?」
「あいつ、普段淡泊なくせに、メカ系や技術のことになると目がらんらんと光るからな」
 しかもうすら笑みを浮かべる癖があるらしい。ペルセウスはその様子を動画に撮ったことがあり、アンドラに見せてみた。
「きもちわる……」
「あまり見るな。お腹の子供に触る……」
 ソールも、ペルセウス・アンドラ夫婦の話のタネにされているとは露にも思わないだろう。

 ところがその翌日。事件が起きた。
 ソールがいつものように研究室を退出して自室に戻ろうとしたとき、突然後ろからの衝撃を受け、そのままどさっと倒れたのだ。
 ペルセウスたちが異変に気付いたのはそれから一週間後だった。