「はあ、どうにか勝ったけど……たどり着けるかな」
 ソールは疲労困ぱいの口調でつぶやいた。
 奇抜な戦術でグリフォンを倒したのはよかったが、フェニックスの自己修復に相当なエネルギーを使ってしまった。ガイアの血もあまり残っていない。
 しかも間もなく日没だから、太陽エネルギーは吸収できなくなる。途中で墜落したらアポロンの遺志を伝える手段はなくなると言っていいだろう。
 そうこうしているうちにエネルギー残量がわずかであることを知らせる警報が鳴り始めた。
「まずい……」
 最後の最後にこのピンチとは。焦りを感じ始めたそのとき、小高い丘にある神殿が見えてきた。
「やった!」
 ソールは思わず叫んだ。と同時にフェニックスの飛行高度が下がっていく。操縦ではなく燃料切れによるものだった。
「もういいさ、ここまでよくやってくれたよ、フェニックス」
 どんどん高度が下がっていき、最後は神殿の前の広場に滑り込むように、ズザアっという大きな音を立てて胴体着陸した。
 ソールはコックピットを飛び出して一目散に神殿に走り始めた。

「ってて、ソールのヤツ、無茶苦茶しやがる……」
 アーレスは、戦闘不能になったグリフォンのコックピットから降りてつぶやいた。この台詞は今日、敵味方問わず何人がつぶやいたことだろう。
 フェニックスと激突した後に谷底に落ちたのだが、飛行高度が低かったので機体は致命傷を負わなかったのだ。
「それにしてもあいつ…本当に誰も殺さずにきたようだな」
 空戦では、フェニックスはかなりの高度で戦っていた。それが急に谷間に入り、グリフォンをおびき寄せて低空飛行をしたのだ。
 やろうと思えばもう少し高い位置で飛び、グリフォンを完全に撃墜することもできたはずだ。
「アポロン……お前は何をあいつに託したんだ?」
 今は天に昇った友に語るように、空を仰いでつぶやいた。
「アーレス」
 名前を呼ばれてはっとした。そばにペルセウスと1人の女性がいたのだ。女性は身体のどこかをいためているのか、ペルセウスが肩を貸してやっている。
「その娘、もしかして……」
「ああ、あの水陸兵器にいたんだ。いろいろと話を聞いて反省させられることがあってな」
 苦笑いするペルセウス。
「アーレス、僕は彼女と一緒に中央神殿に行く。ソールはもう着いている頃だろう、あいつの狙いを確かめる。お前はどうする?」
 言うまでもない、というように笑った後、アーレスは立ち上がった。

 中央神殿には警備兵がいた。当然、ソールはあっという間に取り押さえられて床にうつ伏せにされた。
「待て、話がある! お前らのボスに見せるものがあるんだ!」
「何言っている、この野郎!!」
 警備兵たちは、口々にソールに罵声を浴びせた。
「よう」
 右側から声がした。どこかで聞いたことがある声だ。
「ケルベロスが世話になったな」
 声の主は暗闇からぬっと現れた。左手に包帯を巻いているのは、けがをしているからか?
「ハーデスとか言ったな?」
 ソールは記憶を辿り続け、ようやくその名前を思い出した。
「まったく、お前には脱帽した」
 今度は左側から声がした。1組の男女が立っていた。女性は男性の肩につかまっている。やはり身体のどこかをけがしているのか……。
「地中海での激闘には感服したよ」
 地中海? ということはあの砲台と小型戦闘機に乗っていたのか?
 姿を現した2人――ポセイドンとアルテミスは向こうを見ろと促すように首を向けた。
すると、そこには玉座に座る大柄な男がいた。
「…あんたがゼウスか!」
「よくここまで辿り着いたな」
 ゼウスは椅子から立ち上がり、ソールの前に寄ってきた。
「しかし悪あがきもここまでだ、こいつを牢にぶち込んでおけ!」
「待て、あんたに見せるものがある! アポロンからのメッセージだ!!」
 ゼウスは、床に突っ伏しているソールの髪を掴んだ。
「信用できるか! 我がアルカディア軍をよくも壊滅させてくれたな!!」
「待ってください、ゼウス。話だけでも聴いてやりましょうよ」
 後ろから、別の聞き覚えのある声がした。ペルセウスにアーレス、そしてアンドラだった。
「お前ら生きていたのか」
 ゼウスがびっくりしたような顔で言った。かなりの激闘だったから、戦死したのかと思い込んでいたのだ。
「ソール、どうしたらいい?」
「俺の懐にパピルスメモリーがある。そいつをハードに読み込んでくれ」