《アンドラ、大丈夫か?》
ソールが声をかけた。
《ええ、大丈夫よ……》
アンドラは気丈に明るく応えた。が、どう見ても大丈夫ではない。
ケートスは足や背中の部分から火花が散っている。しかも、前進するたびにポロポロと部品が落ちる。このままでは壊れるのは時間の問題だ。
ヒュドラとセイレーン部隊を撃破したのはいいが代償は大きかった。
《ソール、このままケートスと一緒に上陸するのは無理だ。そこの海岸に残ってもらおう》
ヨルムンガンドが提案した。ニーズホッグはほとんどダメージを負っていない。フェニックスにいたっては自己修復機能があるから問題ない。
しかしケートスはこの作戦の囮役を引き受け、ヒュドラの攻撃を受け続けた。しかも物資の貧しさから、旧式の水陸戦車を改造している。世界最強のアルカディア軍の、さらにその中の精鋭部隊を相手に戦ってきたのだ。もうここで戦線を離脱させた方がよい。でなければケートスは確実に撃破される。
《待ってよ、やれるって言っているでしょう!?》
意地になるアンドラ。彼女の故郷はガイアの血をアルカディアに搾取され続けてきた。それを世界に訴えるには、最後まで戦わなければならない。
《たとえ、私はこの身を犠牲にしても戦うわよ》
ここまでくるとソールもヨルムンガンドも何も言えない。
《そこまで言うならやってもらおうじゃねえか》
フェンリルが口を挟んだ。
《アンドラ、お前はここで敵をくい止めろ。ソール、3時方向に旋回しな!》
ソールはハッとした。レーダーに猛スピードで突進してくる機体を見つけたのだ。操縦桿を切ったときは二つの敵機――ペガサスとグリフォンがフェニックスをかすめていった。
《ペルセウス、アーレス!》
《ソール、年貢の納め時だ!》
よりによってこんなときに!
かつて共に学んだ旧友同士が、今その空で敵としてにらみ合っている。片や祖国に忠誠を誓うトップガン。片や戦闘機の一整備兵。力の差は歴然としている。しかしソールには負けられない理由があった。
(アポロン……)
アレクサンドリアの整備工場が爆発し、アポロン以下、数十人の整備兵が犠牲になった事故からまだ数日しか経っていない。この時代の文明が地下資源であるガイアの血に依存し、多くの問題を引き起こしている事実を知った。
そんな最中、次世代のエネルギーとしての期待を寄せられて開発された、太陽の光を動力に変えるサンギルドシステム。
たった一人、その技術を引き継いだ人間としてアルカディアの中央部に行かなければならない。アポロンの遺志を知るためにも……。
《すまないアンドラ、1機を任せる!!》
フェニックスとニーズホッグは、中央部に向けて舵を切った。
《待て、ソール!》
アーレスが怒鳴る。
《アーレス、お前はあいつらを追え。こっちは僕1人で充分だ》
《仕方ない、頼むぞペルセウス!》
言い捨てるなりグリフォンも後を追った。
《さて……》
ペルセウスは、沿岸の上空から浅瀬に残ったケートスを見下ろした。機体はすでに半壊していて、胴体のそこかしこから火花が散っていた。
《一応聞くが、降参したらどうだ? すでに勝負の見える戦いをすることはない》
ペルセウスはただ強いだけの男ではない。仁・智・勇全てを兼ね備えた軍人だ。敵に対しても礼節を尽くし相手の意志をくみ取ることを信義としている。それ故に、敵味方問わず一目置かれていた。
《断るわ》
アンドラはきっぱりと言った。
《私の故郷はあなたたちのせいで貧困が広がっているの。せめて一矢報いなければ故郷を救うことはできないのよ》
《ならば仕方ない》
ペルセウスはペガサスの操縦桿のボタンを押した。すると、ペガサスの口から砲が現れて、白く細い光線が発射されてケートスの胴体を貫いた。ハルペー光線である。
《きゃっ!》
アンドラは残っていたアバリスの矢でとっさに反撃に出た。いくら何でもこのまま死ぬわけにはいかない。
しかし、弾はペガサスのボディに当たるといとも簡単に粉々になった。
《えっ!?》
これまで弾に耐え抜いた敵はいたが、はじき返すものはいなかった。
《このペガサスにはその程度の攻撃は通用せん。メデューサ装甲を使っているからな》
《メデューサ装甲!?》
《この機体の装甲はある女性技術者が偶然開発したものだ。超合金並みに固く、物理的な弾は粉々に砕き、光線系の攻撃もはね返す》
アンドラは絶望感に襲われた。アルカディアでもトップクラスの攻撃力と全ての攻撃をはね返す防御力。なすすべがない……。
《水圧砲なら……!》
ボタンを押すが作動しない。そうだ、先程ヒュドラの水の弾に吹き飛ばされたのだった。
ソールが声をかけた。
《ええ、大丈夫よ……》
アンドラは気丈に明るく応えた。が、どう見ても大丈夫ではない。
ケートスは足や背中の部分から火花が散っている。しかも、前進するたびにポロポロと部品が落ちる。このままでは壊れるのは時間の問題だ。
ヒュドラとセイレーン部隊を撃破したのはいいが代償は大きかった。
《ソール、このままケートスと一緒に上陸するのは無理だ。そこの海岸に残ってもらおう》
ヨルムンガンドが提案した。ニーズホッグはほとんどダメージを負っていない。フェニックスにいたっては自己修復機能があるから問題ない。
しかしケートスはこの作戦の囮役を引き受け、ヒュドラの攻撃を受け続けた。しかも物資の貧しさから、旧式の水陸戦車を改造している。世界最強のアルカディア軍の、さらにその中の精鋭部隊を相手に戦ってきたのだ。もうここで戦線を離脱させた方がよい。でなければケートスは確実に撃破される。
《待ってよ、やれるって言っているでしょう!?》
意地になるアンドラ。彼女の故郷はガイアの血をアルカディアに搾取され続けてきた。それを世界に訴えるには、最後まで戦わなければならない。
《たとえ、私はこの身を犠牲にしても戦うわよ》
ここまでくるとソールもヨルムンガンドも何も言えない。
《そこまで言うならやってもらおうじゃねえか》
フェンリルが口を挟んだ。
《アンドラ、お前はここで敵をくい止めろ。ソール、3時方向に旋回しな!》
ソールはハッとした。レーダーに猛スピードで突進してくる機体を見つけたのだ。操縦桿を切ったときは二つの敵機――ペガサスとグリフォンがフェニックスをかすめていった。
《ペルセウス、アーレス!》
《ソール、年貢の納め時だ!》
よりによってこんなときに!
かつて共に学んだ旧友同士が、今その空で敵としてにらみ合っている。片や祖国に忠誠を誓うトップガン。片や戦闘機の一整備兵。力の差は歴然としている。しかしソールには負けられない理由があった。
(アポロン……)
アレクサンドリアの整備工場が爆発し、アポロン以下、数十人の整備兵が犠牲になった事故からまだ数日しか経っていない。この時代の文明が地下資源であるガイアの血に依存し、多くの問題を引き起こしている事実を知った。
そんな最中、次世代のエネルギーとしての期待を寄せられて開発された、太陽の光を動力に変えるサンギルドシステム。
たった一人、その技術を引き継いだ人間としてアルカディアの中央部に行かなければならない。アポロンの遺志を知るためにも……。
《すまないアンドラ、1機を任せる!!》
フェニックスとニーズホッグは、中央部に向けて舵を切った。
《待て、ソール!》
アーレスが怒鳴る。
《アーレス、お前はあいつらを追え。こっちは僕1人で充分だ》
《仕方ない、頼むぞペルセウス!》
言い捨てるなりグリフォンも後を追った。
《さて……》
ペルセウスは、沿岸の上空から浅瀬に残ったケートスを見下ろした。機体はすでに半壊していて、胴体のそこかしこから火花が散っていた。
《一応聞くが、降参したらどうだ? すでに勝負の見える戦いをすることはない》
ペルセウスはただ強いだけの男ではない。仁・智・勇全てを兼ね備えた軍人だ。敵に対しても礼節を尽くし相手の意志をくみ取ることを信義としている。それ故に、敵味方問わず一目置かれていた。
《断るわ》
アンドラはきっぱりと言った。
《私の故郷はあなたたちのせいで貧困が広がっているの。せめて一矢報いなければ故郷を救うことはできないのよ》
《ならば仕方ない》
ペルセウスはペガサスの操縦桿のボタンを押した。すると、ペガサスの口から砲が現れて、白く細い光線が発射されてケートスの胴体を貫いた。ハルペー光線である。
《きゃっ!》
アンドラは残っていたアバリスの矢でとっさに反撃に出た。いくら何でもこのまま死ぬわけにはいかない。
しかし、弾はペガサスのボディに当たるといとも簡単に粉々になった。
《えっ!?》
これまで弾に耐え抜いた敵はいたが、はじき返すものはいなかった。
《このペガサスにはその程度の攻撃は通用せん。メデューサ装甲を使っているからな》
《メデューサ装甲!?》
《この機体の装甲はある女性技術者が偶然開発したものだ。超合金並みに固く、物理的な弾は粉々に砕き、光線系の攻撃もはね返す》
アンドラは絶望感に襲われた。アルカディアでもトップクラスの攻撃力と全ての攻撃をはね返す防御力。なすすべがない……。
《水圧砲なら……!》
ボタンを押すが作動しない。そうだ、先程ヒュドラの水の弾に吹き飛ばされたのだった。