その日は穏やかな気候だった。地中海の波も凪の如くと言えた。
しかしその平穏な日が、アルカディアの歴史に残る激動の日になろうとは誰も予想していなかった……。
その日の朝、アルテミスとポセイドンはいつものように地中海の警護にあたっていた。ケルベロス部隊はその後回収された。ハーデスは怪我を負ったためしばらく療養することになっている。
それにしても……気がかりだったのは、例の連中だった。
「あれから数日経つけどどこにいったのかしら?」
アルテミスは最初、追っ手として志願した。しかし、ゼウスが地中海を守る主力としてどうしても外すことができないと、首を縦に振らなかった。
ちなみに、アルテミスは地中海上空を警護するセイレーン部隊のリーダーだ。同じ隊伍を組むパイロットとして、カリストー、セレネがいる。いずれも女性だ。
機体のセイレーンは極めて小型の戦闘機だった。のちにギリシア神話で、航海する者を惑わす海の魔女と伝えられていく。一見すると、攻撃するための砲や爆撃用のミサイルを搭載する箇所がない。初見の者はこれで一体どんな戦闘ができるのかと首を傾げるだろう。
一方、ポセイドンが載る機体は浅瀬に屹立する巨大な蛇型の兵器・ヒュドラだ。全身に砲身が30本近くはある。接近した敵を乱射して仕留めるタイプの兵器だ。
「まあ、誰かが守りを固めておかなくてはいけないからな」
「ねえ、あいつらここに攻め入ってくることは考えられないかな?」
「それはないだろう」
いくら何でもそれは無謀すぎる。ポセイドンにしてみれば、もしアルカディアに攻めるのであれば他のゲリラ組織などに呼びかけて大きな勢力をつくってからである。でなければ圧倒的な兵力の差によって返り討ちにあるのがオチだ。
しかし次の瞬間、ポセイドンの常識が根底からひっくり返る出来事が起きた。
「エマージェンシー、南東から未確認の飛行物体が接近!」
司令部からの警報だ。
「え?」
「ちょっとまさか……」
すぐにモニターを開くとかなりのスピードで接近してきているのが分かる。
「ポセイドン!」
「アルテミスの予感が当たったな、迎撃するぞ!!」
グールヴェイグは最高速度で地中海を突っ切っていた。スピードを緩めたら四方八方から集中砲火を受けるかもしれない。短期決戦しかアルカディアを攻略する道はない。
「いいかみんな、沿岸に着いた瞬間、3機を放り投げるぞ」
《おう!》
《まかせて!》
フェンリルとアンドラは意気揚々と叫んだ。
《アンドラ、絶対に無茶はするなよ》
ソールは注意を促した。ケートスの状態はケルベロスと戦う前より悪くなっている。下手をしたらこの戦いで大破するかもしれない。
《わかってるわ!》
「みんな、武運を祈る!」
ロキがそう叫ぶと、フェニックス、ケートス、ニーズホッグは、グールヴェイグの格納庫から発進した。
フェニックスは空中に踊り出ながら旋回し、海岸に向かって突進した。視認した限りでは浅瀬に巨大な兵器・ヒュドラが立っている。それに向けて攻撃をしようとしたら向こうから何かが発射されてきた。
とっさに操縦桿を切って回避した。次から次へと発射されてきたのは水だった。
「まさか、地中海の水を槍にして飛ばしているのか?」
そう推測したのはヒュドラが足元から海水をくみ上げているように視認できたからだ。そうだとしたら弾は無限にある。
「フェニックスは熱や炎を武器にするから相性悪いな」
ほかの二機はどうだ。ニーズホッグは回避しながら、吹雪のブレスで凍りつかせている。どうにか対処できているようだ。ケートスは何とか浅瀬についてアバリスの矢と水圧砲をヒュドラに浴びせているが、ビクともしていない。
「早くも劣勢かよ」
愚痴を言っていると突然頭がグラッとした。
「な、何だ?」
しかしその平穏な日が、アルカディアの歴史に残る激動の日になろうとは誰も予想していなかった……。
その日の朝、アルテミスとポセイドンはいつものように地中海の警護にあたっていた。ケルベロス部隊はその後回収された。ハーデスは怪我を負ったためしばらく療養することになっている。
それにしても……気がかりだったのは、例の連中だった。
「あれから数日経つけどどこにいったのかしら?」
アルテミスは最初、追っ手として志願した。しかし、ゼウスが地中海を守る主力としてどうしても外すことができないと、首を縦に振らなかった。
ちなみに、アルテミスは地中海上空を警護するセイレーン部隊のリーダーだ。同じ隊伍を組むパイロットとして、カリストー、セレネがいる。いずれも女性だ。
機体のセイレーンは極めて小型の戦闘機だった。のちにギリシア神話で、航海する者を惑わす海の魔女と伝えられていく。一見すると、攻撃するための砲や爆撃用のミサイルを搭載する箇所がない。初見の者はこれで一体どんな戦闘ができるのかと首を傾げるだろう。
一方、ポセイドンが載る機体は浅瀬に屹立する巨大な蛇型の兵器・ヒュドラだ。全身に砲身が30本近くはある。接近した敵を乱射して仕留めるタイプの兵器だ。
「まあ、誰かが守りを固めておかなくてはいけないからな」
「ねえ、あいつらここに攻め入ってくることは考えられないかな?」
「それはないだろう」
いくら何でもそれは無謀すぎる。ポセイドンにしてみれば、もしアルカディアに攻めるのであれば他のゲリラ組織などに呼びかけて大きな勢力をつくってからである。でなければ圧倒的な兵力の差によって返り討ちにあるのがオチだ。
しかし次の瞬間、ポセイドンの常識が根底からひっくり返る出来事が起きた。
「エマージェンシー、南東から未確認の飛行物体が接近!」
司令部からの警報だ。
「え?」
「ちょっとまさか……」
すぐにモニターを開くとかなりのスピードで接近してきているのが分かる。
「ポセイドン!」
「アルテミスの予感が当たったな、迎撃するぞ!!」
グールヴェイグは最高速度で地中海を突っ切っていた。スピードを緩めたら四方八方から集中砲火を受けるかもしれない。短期決戦しかアルカディアを攻略する道はない。
「いいかみんな、沿岸に着いた瞬間、3機を放り投げるぞ」
《おう!》
《まかせて!》
フェンリルとアンドラは意気揚々と叫んだ。
《アンドラ、絶対に無茶はするなよ》
ソールは注意を促した。ケートスの状態はケルベロスと戦う前より悪くなっている。下手をしたらこの戦いで大破するかもしれない。
《わかってるわ!》
「みんな、武運を祈る!」
ロキがそう叫ぶと、フェニックス、ケートス、ニーズホッグは、グールヴェイグの格納庫から発進した。
フェニックスは空中に踊り出ながら旋回し、海岸に向かって突進した。視認した限りでは浅瀬に巨大な兵器・ヒュドラが立っている。それに向けて攻撃をしようとしたら向こうから何かが発射されてきた。
とっさに操縦桿を切って回避した。次から次へと発射されてきたのは水だった。
「まさか、地中海の水を槍にして飛ばしているのか?」
そう推測したのはヒュドラが足元から海水をくみ上げているように視認できたからだ。そうだとしたら弾は無限にある。
「フェニックスは熱や炎を武器にするから相性悪いな」
ほかの二機はどうだ。ニーズホッグは回避しながら、吹雪のブレスで凍りつかせている。どうにか対処できているようだ。ケートスは何とか浅瀬についてアバリスの矢と水圧砲をヒュドラに浴びせているが、ビクともしていない。
「早くも劣勢かよ」
愚痴を言っていると突然頭がグラッとした。
「な、何だ?」