「けっこう派手にやられたなあ」
ソールはのんきな口調で言った。が、先のケルベロス部隊との戦闘で辛勝したもののグールヴェイグ側の被害は小さいものではなかった。
ニーズホッグは片翼を激しく損傷している。墜落したときのダメージも多少あるようだ。ケートスに到っては、四足のうち3本が折られている。
ソールは、早速修理に取りかかった。ニーズホッグの翼はスペアがあったのでそこから必要な部品を取り出して当てた。ボディのダメージは、傷があるものの内部までに損傷はないようだ。
問題はケートスだ。スペア部品がない上、旧式モデルなので最新の部品では合わない。結局、格納庫にあった中古の部品を一から組み立てて修復することになった。これは、整備兵として修練を積んできたソールでも半日かかった。
「ごめんね、ソール」
アンドラが目を潤ませ申し訳なさそうに言った。そう思うならこれに乗らなきゃいいのに……。
「で、これからどうするんだ?」
ソールはロキに尋ねた。ケルベロスはおそらく、こちらとの戦闘データをアルカディアに送っているはずだ。すでに手の内は見抜かれていると思ってよい。
「守りに回ったらじり貧になるだけだ、こっちから殴り込もうぜ!」
フェンリルが狼のように吠えた。
「殴り込むって、勝算はあるのか?」
ヨルムンガンドが冷静に突っ込む。この2人は火と水のような性格だが、お互いを補って戦っているように見える。
とは言うものの、受け身に回れば燃料や物資がなくなり殲滅されるのは目に見えている。フェンリルの言う通り打って出た方がいいだろう。
「そうだな、だがその前に寄るところがある」
ロキはそう言うとパイロットに指示し、進路を北西にとった。
「これはいったいどういうことだ!?」
ゼウスが怒鳴った。
追っ手に向けたケルベロス部隊が全滅した。陸軍の主力部隊を投入したにもかかわらず、敵を仕留められなかったのだ。兵器はユニコーンのほとんどが大破、アラクネは大破したものが半分、ケルベロスは動力部とコックピットは無事だったが手足とカメラアイが壊れて戦闘不能となっている。
その一方、敵の戦い方に首をひねる者もいた。死者が出ていないのだ。
「あれだけの戦力を撃破するなら兵士もろとも殲滅できるはずなのに……変な連中ですね」
ポセイドンが呟いた。彼はアルカディアの海軍の司令官であり、のちにギリシア神話の海の神となる男だ。そんな彼の経験上、こんな戦い方をする敵は今までにいなかった。
「アルテミス、どう思う?」
ポセイドンは、そばにいた女性――といってもまだ少女と言える歳の女性に聞いた。アルテミスと言い、こちらは神話の月の女神となる女性だ。
「何か、別の目的があるんじゃないかしら? あとでハーデスが送ったデータを解析してみましょう」
ソールの予想通り、戦闘の記録はケルベロスから転送されていた。解析自体は既に彼らの部下が行っている。やがて解析作業が終わり、2人はその作業室に通された。
「まずは……この竜型の兵器からか」
ポセイドンらが最初に見たのはニーズホッグのデータだった。
「使う武器が吹雪のブレスか。普通は、鉱物系の実弾か熱線が武器なのにな」
さらに解析するとスピードや耐久力が打ち出された。もっとも数時間の交戦なので、完全に把握しているわけではない。が、ケルベロスの送ったデータから予測を立てることはできる。例えば、スピードであれば1秒以下の単位で速度を測る文字がモニターに出ているので、目の前を通過する速度とその時間から解析できるのだ。
「こちら側の攻撃を凍らせることもできるんだろうな。なかなか手強い」
「装甲の破片から、出身地域も解析できるわよね?」
「今、データが出ます…」
画面に出たのは、アルカディアが主に使う青銅ではなかった。
「グラムという鉱石ですね」
主に、北欧で採れる鉱石である。後世において北欧神話の剣として知られるものだ。
「じゃあ、こいつは北欧の兵器ってことね。アスガルドで造られたのかしら?」
「でもアスガルドは外に侵略しないだろう。あそこは独自のエネルギーシステムがあるから、資源を確保する目的で戦争を仕掛けないよ」
謎を残したまま次の兵器・ケートスを解析した。
「何だこれは。スピードもないし空も飛べない。おまけに、装甲がつぎはぎじゃないか」
「何でこんな役に立たなそうな兵器がいるのかしら?」
ソールでなくともケートスの評価は散々なものだった。
「破片から解析してみると……って分からないですね。いろんな金属が混ざっているようで」
「出身地域不明なのね……」
「いや、そうでもないぞ」
ポセイドンはきっぱり言った。いろいろな金属が混ざっていて、なおかつ不格好なつぎはぎの装甲と言うことは、資源が少ないか経済的に貧しい地域の出と推測できる。
「恐らくアレクサンドリアより南の地域だろう。あの辺りは発展途上の地域だからな」
「なるほど」
そして、最後の1機――フェニックスが映された。
「もしかして、これがアポロンの開発した戦闘機か?」
「全身が炎に包まれたような機体ね」
武器は、解析した限りでは尾から放つミサイルだった。しかし、写真を見ると砲撃部分もあるので他に武器がありそうだった。
「装甲の解析はできません」
「え、何故?」
「破片が解析できないのです、というより、破片がないのです」
映像を見た限りではケルベロスと最も長く戦っていたのはこの機体だった。それもかなりの激闘だったはず。損傷していないわけがない。疑問は深まるばかりだ。
「謎が解けたと思ったら、新しい謎が増えてしまったわね……」
アルテミスはこのとき、近いうちにこの敵と交戦することになるとは予想だにしていなかった。
ソールはのんきな口調で言った。が、先のケルベロス部隊との戦闘で辛勝したもののグールヴェイグ側の被害は小さいものではなかった。
ニーズホッグは片翼を激しく損傷している。墜落したときのダメージも多少あるようだ。ケートスに到っては、四足のうち3本が折られている。
ソールは、早速修理に取りかかった。ニーズホッグの翼はスペアがあったのでそこから必要な部品を取り出して当てた。ボディのダメージは、傷があるものの内部までに損傷はないようだ。
問題はケートスだ。スペア部品がない上、旧式モデルなので最新の部品では合わない。結局、格納庫にあった中古の部品を一から組み立てて修復することになった。これは、整備兵として修練を積んできたソールでも半日かかった。
「ごめんね、ソール」
アンドラが目を潤ませ申し訳なさそうに言った。そう思うならこれに乗らなきゃいいのに……。
「で、これからどうするんだ?」
ソールはロキに尋ねた。ケルベロスはおそらく、こちらとの戦闘データをアルカディアに送っているはずだ。すでに手の内は見抜かれていると思ってよい。
「守りに回ったらじり貧になるだけだ、こっちから殴り込もうぜ!」
フェンリルが狼のように吠えた。
「殴り込むって、勝算はあるのか?」
ヨルムンガンドが冷静に突っ込む。この2人は火と水のような性格だが、お互いを補って戦っているように見える。
とは言うものの、受け身に回れば燃料や物資がなくなり殲滅されるのは目に見えている。フェンリルの言う通り打って出た方がいいだろう。
「そうだな、だがその前に寄るところがある」
ロキはそう言うとパイロットに指示し、進路を北西にとった。
「これはいったいどういうことだ!?」
ゼウスが怒鳴った。
追っ手に向けたケルベロス部隊が全滅した。陸軍の主力部隊を投入したにもかかわらず、敵を仕留められなかったのだ。兵器はユニコーンのほとんどが大破、アラクネは大破したものが半分、ケルベロスは動力部とコックピットは無事だったが手足とカメラアイが壊れて戦闘不能となっている。
その一方、敵の戦い方に首をひねる者もいた。死者が出ていないのだ。
「あれだけの戦力を撃破するなら兵士もろとも殲滅できるはずなのに……変な連中ですね」
ポセイドンが呟いた。彼はアルカディアの海軍の司令官であり、のちにギリシア神話の海の神となる男だ。そんな彼の経験上、こんな戦い方をする敵は今までにいなかった。
「アルテミス、どう思う?」
ポセイドンは、そばにいた女性――といってもまだ少女と言える歳の女性に聞いた。アルテミスと言い、こちらは神話の月の女神となる女性だ。
「何か、別の目的があるんじゃないかしら? あとでハーデスが送ったデータを解析してみましょう」
ソールの予想通り、戦闘の記録はケルベロスから転送されていた。解析自体は既に彼らの部下が行っている。やがて解析作業が終わり、2人はその作業室に通された。
「まずは……この竜型の兵器からか」
ポセイドンらが最初に見たのはニーズホッグのデータだった。
「使う武器が吹雪のブレスか。普通は、鉱物系の実弾か熱線が武器なのにな」
さらに解析するとスピードや耐久力が打ち出された。もっとも数時間の交戦なので、完全に把握しているわけではない。が、ケルベロスの送ったデータから予測を立てることはできる。例えば、スピードであれば1秒以下の単位で速度を測る文字がモニターに出ているので、目の前を通過する速度とその時間から解析できるのだ。
「こちら側の攻撃を凍らせることもできるんだろうな。なかなか手強い」
「装甲の破片から、出身地域も解析できるわよね?」
「今、データが出ます…」
画面に出たのは、アルカディアが主に使う青銅ではなかった。
「グラムという鉱石ですね」
主に、北欧で採れる鉱石である。後世において北欧神話の剣として知られるものだ。
「じゃあ、こいつは北欧の兵器ってことね。アスガルドで造られたのかしら?」
「でもアスガルドは外に侵略しないだろう。あそこは独自のエネルギーシステムがあるから、資源を確保する目的で戦争を仕掛けないよ」
謎を残したまま次の兵器・ケートスを解析した。
「何だこれは。スピードもないし空も飛べない。おまけに、装甲がつぎはぎじゃないか」
「何でこんな役に立たなそうな兵器がいるのかしら?」
ソールでなくともケートスの評価は散々なものだった。
「破片から解析してみると……って分からないですね。いろんな金属が混ざっているようで」
「出身地域不明なのね……」
「いや、そうでもないぞ」
ポセイドンはきっぱり言った。いろいろな金属が混ざっていて、なおかつ不格好なつぎはぎの装甲と言うことは、資源が少ないか経済的に貧しい地域の出と推測できる。
「恐らくアレクサンドリアより南の地域だろう。あの辺りは発展途上の地域だからな」
「なるほど」
そして、最後の1機――フェニックスが映された。
「もしかして、これがアポロンの開発した戦闘機か?」
「全身が炎に包まれたような機体ね」
武器は、解析した限りでは尾から放つミサイルだった。しかし、写真を見ると砲撃部分もあるので他に武器がありそうだった。
「装甲の解析はできません」
「え、何故?」
「破片が解析できないのです、というより、破片がないのです」
映像を見た限りではケルベロスと最も長く戦っていたのはこの機体だった。それもかなりの激闘だったはず。損傷していないわけがない。疑問は深まるばかりだ。
「謎が解けたと思ったら、新しい謎が増えてしまったわね……」
アルテミスはこのとき、近いうちにこの敵と交戦することになるとは予想だにしていなかった。