「話、終わった?」

 駄菓子屋で買い物を終えた暁斗が小高塾のドアを開けて、入って来た。千晃と愛香は、手を繋いで、ラブラブな様子を暁斗に見せてはいけないと慌てて、ごまかした。千晃はホワイトボードでペンも持たずに泳ごうとする仕草をしたり、愛香は、窓際に移動して、窓が閉まっているのに開けたり閉めたりしていた。

「あ、あ、えっと……別に話なんてしてないよ。ねぇ」
「話してたっしょ。俺は分かる」
「……さてね。暁斗の想像力に任せよう」
「え? そういうこと言っちゃう? 膨大なハッタリ妄想しちゃうよ。あーやって、こうやって……」
「はいはい。ご自由にどうぞ。ほら、おはぎ食べるぞ。せっかくだから」
「あ、忘れてた。食べないとかたくなるから」
「……俺も食べる」

 3人は机に袋からおはぎのパックを乗せて割りばしをわって、舌鼓をうった。

「お、案外食べられるわ。甘すぎない」
「うん。そうだよね。ここの結構おいしいって評判なのよ」
「あんこめっちゃ好きだから。飲み物だわ」
「食べるの早すぎ。味わってよ」
「いいでしょうが、別に」

 言葉の端々に暁斗は寂しさを感じた。ここにいない方がいいのかなと察する。
 自分がいない間に何かあったんだろうと勘づいた。愛香の頬が赤くて笑顔が増えたことと、千晃の表情もこわばっていたのが柔らかくなっていること。暁斗は見逃さなかった。

「ごちそうさまでした。んじゃ、俺、帰ります」
「え、送っていくんじゃないのか」
「……何とか帰れますよ。子供じゃないですから」
 暁斗は、ズボンのポケットに手をつっこんで、塾を後にした。

(2人の中に入れるかって……気まずいっつーの)

 背中越しに2人が笑って話してるのが聞こえた。暁斗はもう、ライバルであることをあきらめることにした。
 おはぎを食べながら、愛香と千晃は、しばらく笑いながら外が真っ暗になるまで話をしていた。

 夜空に浮かぶ満月になるのを車に乗るときにチラリと見る。
 なんとなく、ここに来てよかったと愛香はほっと胸をなでおろしていた。