時計の針がカチコチと鳴る。耳に残って、不快に感じる。
千晃先生は静寂の中、口を開いた。

「あの。お迎えですよね」
「……この度は、娘をお預かりしていただきまして、ありがとうございました。もちろん、迎えです。ほら、愛香、帰るわよ」
「あ、はい。すいません。帰る支度しましょう」

 千晃先生は大きく広げて話をできなかった。いつもなら、気を使って営業トークのような会話を保護者と繰り広げる。それができなかった。それは、愛香の母の表情が不自然だった。声は笑っているのに、顔が額に筋を作ってひきつっている。本当は怒り満載なのかもしれない。バックにすべて荷物を詰め込んで、玄関で靴に履き替えた。

「いろいろとご迷惑をおかけしまして、申し訳ございませんでした」
「……いえ、こちらこそ、愛香さんを連れ出してしまって、すいませんでした」
 
深くお辞儀をすると、愛香の母は、千晃先生は、耳打ちで何かを話していた。愛香は話す内容を聞き取ることができなかったが、青白い顔をする千晃先生に何となく状況を察した。

「お邪魔しました」
 テンション低めに愛香は、千晃先生の家を出た。愛香の母は、ご機嫌になりながら、愛香の荷物を運ぶ。

「お昼ごはん、何にする?」
 車の運転席に座って、話し出す。
 助手席に座り、窓の外を眺める。愛香は返事をしたくなかった。

「……何よ。何も言わないなら、牛丼にするわよ」

 少しだけご機嫌ななめになりながら、車を発進させた。
 愛香はなんで迎えに来たんだと納得できなかった。そのまま先生とともに過ごした方がどんなに楽で居心地よかったか気のしれたもんじゃない。顔を両手でふさいだ。涙が出そうになったが、ぐっとこらえた。泣いたところで何もかわらないことを思い出す。メンタルは強くなっている気がする。


 煌々と光る太陽がフロントガラスを見えなくする。

「眩しい!」

 眩しくてあまりいい気分はしない。仕方ない。そんな気分もある。