ツバメが玄関の近くで巣を作っていた。

 ぴよぴよと雛が鳴くと親鳥が餌を持ってやってくる。

 雛がご飯を食べて落ち着いていた。



 ツバメが家に巣を作ると幸せになれるというジンクスを聞いたことがある。

 とある二階建てのお家の庭に小さな5歳の女の子がお父さんとお庭の手入れを手伝っていた。

「ねえねえ、今日は何を植えるの? 前はあっちの花壇にマリーゴールドを植えてたでしょう? 今日はどうするの?」
「先週、おばあちゃんの家からもらった球根あったでしょう? あれ、どっちのおばあちゃん? お母さんの方?お父さんの方? いや、結局はどっちからももらったんだっけかな」
「オオカミおっぴおばあちゃんとコンコンゆきおばあちゃん、どっちもだよ。お父さん、覚えてよ!」

 女の子はお父さんの背中にはりついて、おんぶしてもらおうとしていたが、これから花の球根を植えるため、背中はゆらゆら動いていた。


雪菜(ゆきな)、なんで、おばあちゃんたちをオオカミとかコンコンゆきとか言うんだ?」
「だから、白狼って言う名前だからオオカミさん。雪田って名前だからコンコンゆき。ただのゆきって言ったら私の名前と被るでしょう。そう言うこと!」
「随分お口が達者になりましたね。お話がお上手です」

 ワンピースを着ていた白狼雪菜(しらかみゆきな)は、お姫様のようにスカートを持ってお辞儀をした。

「ありがとうございます!」
「ほら、お花植えるよ。2人のおばあちゃんからもらったすずらんすいせん。雪菜も、一緒に植えるの手伝って」
「はーい」

 軍手とスコップを持って雪菜はお父さんのお手伝いをした。


「できた! 可愛く育ちますように」
「雪菜? お話ししてあげようか」
「ん? 何のお話?」
「このすずらんすいせんを英語でいうとスノーフレークって言うだけど……」
「あ、スノーってゲームの中で聞いた事あるよ? 雪って意味でしょう。知ってるよ」
「そうそう、そのスノーフレークの可愛いお花に憧れた1人の高校生がいてね……」
「うんうん」

頬杖ついて聞き入った。


「目の前に現れたスノーフレークみたいにすずらんとすいせんが一緒になったような2つの心を持つ男子高校生に出会って……」
「ほうほう。好きな子かな? ドキドキ……」
「なんだかんだで、大変幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし!!」

 雪菜が高く抱っこされて、ぐるぐる回された。

「えーーー? なんだかんだって何? わからない。おもしろくなーい」
「だって、それはお父さんとお母さんの、お話だからすごくすごーく長くなるんだよ」
「え? そうなの?」
「お母さんに聞いてみな。どう話すかはお母さん次第だけどね」
「聞いてみる~。お母さーん、お父さんとの話聞かせて!」

 肩車をしていた龍弥は、そっと雪菜をおろした。家の中でお昼ご飯の支度をしていた菜穂に
 かけよった。お腹を大きくして動いていたため、疲れやすかった。
 臨月に入ってて、なかなか出てくる兆候は見られなかった。
 話を聞こうと家の中に入って行った。

 
 龍弥は腰に手を当てて庭から家を屋根から下までじっくり見つめた。


 雪菜が生まれて5年が経った。

 32歳になったとき、35年の住宅ローンを組んで建てた家大事にしっかりメンテナンスをしないとなと思いつつ、蛇口から水をジョウロに注ぎ入れて球根を植えた。

スノーフレークの花の花壇にたっぷりと水をかけた。
この花が咲く頃、雪菜は小学一年生になる。
とても感慨深い時に植えたなとしみじみと感じた。


咲くのがすごく楽しみだった。

花が咲いた時は必ずスマホの待ち受け画面に雪菜とスノーフレークが
一緒に写ったものにしようと心に決めた。
あの頃、ピアスを開けたり髪を銀色に染めたり部活をしてやめたり外部のフットサル通ってバイト三昧だったり。

いろんなことがひしひしと蘇る。

今では真っ黒に髪を染めてごくごく普通のお父さんな格好をしている。
 
でもあの時、あの瞬間の、行動をしなければ今という自分は存在しない。

この花のことを知って花を好きになっていなければここにいないかもしれない。

それは菜穂も同じだった。


「お父さん? あまり、雪菜に、変なこと言わないでよ!!」

 玄関の扉から大きな声で叫んだ。雪菜に話をする菜穂は龍弥が変なこと言わないかヒヤヒヤしていた。


「はいはい」
「はい は 1回でしょう!」
「はい!!」

 龍弥は大げさに敬礼して返事をする。そんな当たり前のやり取りができる幸せを感じていた。泣いたり笑ったり
 怒ったり悲しんだり高校のあの頃を思い出せばそれを全部我慢していた。

 菜穂といれば感情を思っ切り出してのびのびと生活することができる。
 これからもそんな毎日がいつまでも続けば良いなと心から望んだ。

【 完 】