かつて恋人だった僕─瑞希(みずき)と彼女─汐桜(しおん)
その期間はわずか3か月、僕が転校するまでの間だけ
別れる前、1度だけ行ったデートでお揃いで作ったブレスレット
僕のせいでなかなかデートに行けなかったのに彼女は一つも嫌な顔をしなかった
別れる際も舞い散る桜の下で、『ブレスレットが切れたらまた会わない?』と約束を初めに口にしてくれたのも彼女だった
僕の都合で別れを切り出したのにまた会おうなんて言ってくれる彼女に僕は頷くことしかできなかった
大学生になった今でも忘れられなくてお揃いで作った結い紐のブレスレットはずっとちゃんと肌身離さず持っていた
だけれど悲しい再会を果たしてしまう
その再会とは僕のお葬式だった
レンタカーに轢かれた僕
運転手は慣れない土地で車を借りてナビに注視しすぎていたせいで前を見ていなかったのだろう
車道の信号が赤になっていたことに気づいていなかった
信号無視のレンタカーの先には横断歩道を渡っている少女と渡り切った先で少女を呼ぶ少年がいた
周りの人はレンタカーに気づいて足を止めていて「危ない」と叫んでいたけれど
兄弟の元へ急ごうと渡っている少女の耳には届いていなかった
このままだと少女は轢かれてしまう
そんな場面を兄弟が見るのは酷だ
だから何十年かぶりに僕は駆けた
抱えて渡りきるなんてかっこいいことはできなくて少女の背中をドンと押す
その直後僕の体に衝撃が走り、宙を舞った
ブレーキなんて踏んでいないだろうから最低でも時速40~60キロの力が僕の体にぶつかったことになるはずだ
まあまず助かりはしないだろう
死期が少し早くなっただけだ
走馬灯もなくただゆっくり落ちていく僕の体
誰かを助けることができたならのならこの命今日まで取っておいてよかったと心から思ったところで道路に全身がたたきつけられ、僕の意識は途切れた
最期に見えたのは轢かれることのなかった少女と大泣きしている少年
僕の周りで慌てて電話を掛けたり、声をかけてくれている大人たち
そして切れてしまったブレスレットだった